File.2-4 お前のアリバイねぇから
「えっと、私が己西晴実だけど…あなたたちは…?」
「探偵団です」
「会長、適当なこと言わないでください」
「た、探偵団、です」
「煌さんも乗らないでいいから!」
町原大学構内の大きな食堂。事件に首を突っ込んだまま抜く気もない三人は、大学へ突撃して己西晴実に会っていた。反省はしていないだろう。
己西に会うのが容易だったのは大学内の人間が皆認知していたためだ。理由は己西がミス町大と呼ばれているからである。
「以浜蒼星さんが殺害されたのはご存じですね?」
早速、冥府瀬が切り込む。
己西は戸惑いながらも質問に応じる。
「ええ。今朝刑事さんが来られて聞いたわ。とっても驚いた」
「午後11時頃に図書室にいたとのことですけど、その後は大学を出たんですか?」
「帰宅したけど…。あれ? もしかして疑われてる?」
「犯行時刻にはアリバイがあると伺っていますので、決して疑ってるわけじゃありませんよ。何か有益な情報がないか聞き込みをしてるんです!」
冥府瀬が遠慮なしに質問をアタックするので、守はそれを一旦阻止して、あくまで形式的だということを主張する。生徒会長の制御がきかないのが玉に瑕である。
「なるほど。あ、疑うんだったら蒼星の恋人の女。あいつが怪しいわ」
「あいつ…?」
これまた元恋人と現恋人で何か因縁があるのか。喋り方からして、冬青にアリバイがあることを知らないようだ。
「あいつが私から蒼星を奪ったのよ。でも蒼星が配信に没頭するようになって一緒にいる時間が減ったとかで、最近は愛が冷め気味って噂。嫌になって殺しちゃったのねきっと」
吐き捨てるように、己西は冬青犯人説を主張した。冬青には動機があると同時に、己西自身にも自分以外の女に乗り換えた恨みという動機があることを物語っているが。
「以浜さんのことは今はどうとも思っていないと?」
「そうよ。すぐにあの女とくっついた直後はショックだったけど、すぐに冷めちゃった」
もしかしたら熱されやすく冷めやすいのかもしれない。
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「冬青は私だけど。警察の差し金かしら?」
「言い方に悪意がありますね」
続いて三人は性懲りもなく二人目の容疑者、冬青七世に会っていた。
周囲の情報から冬青の会社を突き止め、定時退社を決めようとしていた彼女をとっ捕まえて喫茶店まで連行したのだ。
「午後11時頃は居酒屋で同僚と飲んでいたがその15分後には店を出たとのことでしたけど」
「そうそう。自分のアパートまで帰ったけどさ、まさかあのとき蒼星が死んでるなんて思いもしなかったわ」
コーヒーに砂糖を二杯ほど入れながら冬青は淡々と言う。彩瞳は、恋人の死に対してそんなに悲しんでないように見えた。守も同様だった。
「付き合っている彼氏が殺されたというのに余り悲しんでるようには見えないけど?」
冥府瀬も気づいていた。遠慮ゼロでダイレクトに疑問を口にする。
すると冬青は小さく笑うと「そうね」と躊躇することなく首肯した。彼女は徐に右腕の袖をまくり上げた。腕にはいくつもの痣が残っていた。
「ずっと暴力を振られてた。だから、死んでせいせいしたわ」
手にかけるには十分な動機だ。
「でも私は犯人じゃないから。怪しいのは元恋人ね」
こちらも同じで元恋人が怪しいと主張を始めた。己西にアリバイが存在するのを知らないのだろう。
「私は別に蒼星を奪った訳じゃない。蒼星が私を選んだだけ。だからあいつが裏切った蒼星に手を下したのよ。そうに決まってる」
声を荒げた冬青はコーヒーを一飲みする。
守と冥府瀬は顔を見合わせるしかなかった。彩瞳はまたもや何かを考えこんでいた。
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「え、本当に死んでたの!?」
いつもの朝。教室に入って席について、いつも通り未華と駄弁る。守が何気なく配信者アオモチが殺されたことを口にすると、未華が目をこれでもかと丸くして驚きの声を上げた。
「あの配信見てたのか」
「偶々ね。うわあ、じゃああれやっぱ死ぬ瞬間だったんだ。嫌なもの見ちゃった。うう、守、慰めて」
「なんか気になったところはあったか?」
「無視すんなこら」
ぺし、と頭をはたかれるが気にせず続ける。
「気になるとこって言っても、超いいところでトイレに立ったくらいかな」
「どうして気になるのさ」
「中途半端な場面で席を外すことがあんまり無かった印象だったの」
どうやら実況者の鑑と言えなくもないほど彼は配信者として人気だったようだ。
「煌さんは、どう?」
守は隣の席にいる本で顔を隠した銀髪少女に訊いてみた。
声をかけられた瞬間、「ふぇ」と変な声が出てしまうが、気を取り直して意見を述べる。
「は、犯人は、こ、己西さんか冬青さん、どちらか、です。あ、アリバイは崩せます」