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不運探偵は今日もビビりながら推理する  作者: MOGI
File.2 無名騎士殺人事件
17/22

File.2-2 生徒会長は謎生物

 高校の事件が収束して二日後。

 守は久しぶりにミステリー研究部の部室に顔を出していた。

 本人が希望したのではなく、昇降口に待ち構えていた冥府瀬と彩瞳によって強制的に呼び出された形である。

 部室の扉を開くと中に待機していたのはその呼び出し主二人である。

「…先日の殺人事件の話かあ?」と聞こえないよう呟いて適当な位置の椅子に腰を下ろす。


「君に来てもらったのはほかでもないわ。皆でUNOをしようと思って」

「意味不明な嘘はおいといて用事は何なんですか」


 冥府瀬の冗談を涼風のようにスルーして用件を尋ねる。


「…京君が起こした殺人事件。不可解な点がいくつか判明したの」

「ほう」

「まずは既に煌さんから耳にしてると思うけど、埋火さんが京君に刺されたと思われる廊下。京君は隠滅作業はしていなかったにも関わらず、血痕は確かに残ってなかった。これについてなんだけど、証明されたわ。ルミノール反応が出たのよ」


 冥府瀬が淡々と説明する。どこで情報を仕入れたんだと思ったが、彩瞳と共に学文路あたりに聴取しに行ったんだろうと予測した。先を促す。


「それ以外は?」

「…二番目に殺害された吟宮君について」

「吟宮の方も気になるところがあるのか」

「そもそもの話で、吟宮君は埋火さん殺害現場を目撃したから昼休みに京君を呼び出したって結論付けたわね? その場合、何故早朝から吟宮君も校内にいたのか分からないの。ここが一つ目の疑問。二つ目は、吟宮君の遺体の鑑識結果なんだけどね。アイスピックで刺されて死亡したのは間違いないんだけど、二回刺されてることが分かったの。片方が致命傷になったみたい。京君は一度しか刺してないと主張してるから、証言が本当なら吟宮君を刺した別の人間がいることになる」


 気になることが次々と明らかになった。吟宮が早朝、しかもほとんどの生徒がまだ登校していない時間帯に学校にいた理由。吟宮の遺体にアイスピックが二度刺さった痕がある理由。


「なるほどね。事件はまだ完全に解決はしてないってわけですか」

「ええ」

「めっちゃ首突っ込むじゃないすか」

「君に言われたくはないけど」


 ごもっともである。


「実はね、乙鳥君を呼び出したのは他にも理由があるの」


 文庫本を片手に視線を落としたまま、冥府瀬はそう告げる。


「昨日SNSで話題になってた、人気配信者のアオモチの生配信よ」


 動画配信者であるアオモチのゲーム生配信がSNSでトレンド入りしていたのは守も認識していた。特にアオモチのファンをやっているわけでも動画にはまっているわけでもないので、トレンド入りしている原因を確認しようとは思わたなかったが。


「い、嫌な予感が、するんです」


 それまで黙っていた彩瞳だったが、声を震わせながらおもむろに口を開く。


「昨日の生配信、み、見てみたんですが、と、とても、普通には見えなくて」

「どういうことだ?」


 彩瞳はたどたどしく守に生配信の内容を詳らかに教える。


「で、その生配信以降アオモチのアカウントからの告知も無いと…」

「い、いつもなら、決まった時間に、SNSの呟きとか次回の動画の告知とか、あ、あるんですが」

「要するによ。乙鳥君への依頼は、このアオモチの生死確認ってこと」

「…」


 守の答えとしては、彩瞳に従う、である。彩瞳が調査すると言えば同行するし、逆にしないと否定するなら肯定するのみ。


「煌さんは気になるのか」

「は、はい」

「なら自分は良いけど」

「そう言ってくれると思ってたわ。お礼にトマトあげる」

「何でトマト持ってるんですか」

「トマトも凍らせたら凶器として十分かと思って」

「トマトじゃなくてもいいでしょうそんなもの。…お礼ならいらないですよ」

「別にあげないわよ?」

「何でお礼とか言い出したんだこの人」


 脈絡の無い生徒会長との会話にはもれなく疲労が付いてくる。

 一度ため息をついて仕切りなおす。


「…で、アオモチってどこに住んでるんですか」

「知らない」

「八方塞がりじゃねえか」


 ツッコミが炸裂した。


「案外近くにいたりして」

「それだったら楽ですけど…まず居場所から探すってなるとさすがに死にますって体が」


 思わず肩をすくめる守だった。

 すると徐に彩瞳が守の傍らに近づいて、スマホの画面を見せてくる。

 画面には男の映像とゲーム画面と思しき映像の二画面が映っていた。話の流れからしてこの人物がアオモチだろうと守はすぐにピンときた。

 彩瞳は無言のまま画面をタップ。同時に画面の中の映像が動き出す。

 アオモチはしばらくゲームをプレイし続け、謎の騎士がゲーム画面に出現するやいなや退席。数分して戻ってくるとプレイを再開しようとする。が、キーボードが不調で動かない様子。同じタイミングでキーボードに気を取られているアオモチの背後の扉から甲冑姿の人物が現れ、アオモチの真後ろまで来ると大剣を振りかざしてアオモチを斬り殺した。血の付いた大剣が映った後、甲冑姿の人物は生配信を切った。


「…うーん」


 映像を見た守だったが正直作り物なのか本当の殺人の瞬間なのか分かる訳もなかった。


「煌さんはこれがマジで彼が殺されたんじゃないかと危惧してる」


 コクリと頷く彩瞳。彩瞳の方をしっかり見つめていた守に対して、人と目を合わせるのが超絶苦手な彩瞳は床を見ながら頷いていた。おかげで耳と会話しているようだった。


「あれ、ちょっと待って」


 ふと映像を見て守は気づく。


「……煌さん、先輩」

「先輩の私より煌さんの方を先に呼ぶなんて……ひどい、ひどいよ乙鳥君」

「何に嫉妬してるんですか。って、そうじゃなくて、気づいたんですよ」

「…?」

「何に気づいたの?」


 彩瞳と冥府瀬が目をキラキラさせて詰め寄っている(彩瞳は明後日の方向を見ながら近づいている)。


「アオモチが住んでる場所ですよ」


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