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不運探偵は今日もビビりながら推理する  作者: MOGI
File.2 無名騎士殺人事件
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File.2-1 画面の中の騎士

 正司の言葉を守は理解したくなかった。煌彩瞳は家族を皆殺しにした犯人だと、とても信じられなかった。


「だから何だって言うんだ」

「…煌彩瞳は殺人犯だ。お前を殺人犯と行動を共にさせる訳にはいかない」

「勝手に決めつけるなよ。俺はその事件のことなんざ知らない。俺は探偵煌さんの助手だ」


 語気が無意識に強くなる。もう彩瞳のワトソンとして貢献する、と守は心に決めていた。

 フンと正司は鼻を鳴らす。


「やはり俺の息子だな、守」


 突然何を言い出すかと思えば、息子であることの再認識。


「一度決めたことは捻じ曲げない。例え自分がどんな危険に遭おうともだ。……忠告とは言ったが無理には止めん」

「さっきと言ってることが百八十度違うが?」


 何だかんだ正司は自分の息子の意志を尊重したいようだ。


「忠告は警視総監として。でも親としては、否定はしないと?」

「ああ。そこまで貫くならな。殺人犯だと言えば諦めるかもしれないかと思ったが」

「…父さんは、煌さんを犯人だと思ってない…ってこと?」

「正直な答えは『分からない』だ」


 腕を組んで背もたれに体重をかけて正司は言う。


「当時の捜査班は十中八九、煌彩瞳が実行犯だと想定している。だが、不自然な点ももちろんある」

「そうか」

「あくまで煌彩瞳がチェーンソーを所持した状態で発見されただけ。実際に手を下した人物が別にいる可能性も否めないわけだ」


 つまりはこの父親は完全に彩瞳を犯人と思考ロックしている訳ではないが、常に同伴することになる息子にも念のため忠告をしに訪れたのである。


「最初からそう言ってくれ」


 ~~~~~


『アオモチチャンネルへようこそぉぉ、アオモチだ! 生配信に来てくれてサンキューだお前ら! 今日プレイしていくゲームはコイツだ! シャキーン、アンネームド・ナイトぉぉ』


「あ、始まった」


 未華はスマホを片手にベッドへ仰向けになる。スマホの画面に映るのは、金髪の若い男とゲーム画面。

 彼はアオモチという名前で活動する人気動画配信者で、チャンネル登録者数七十万人を誇る。未華はアオモチチャンネルの存在は二年ほど前にとあるゲーム実況で知り定期的に動画や生配信を視聴している。

 今日もアオモチはいつも通り夜の九時から生配信を開始した。ゲーム画面に映っているのは「アンネームド・ナイト」というゲームだ。呪いのゲームとして有名で、特に知れ渡っているのは、このゲームをプレイすると作品に名を冠するアンネームド・ナイトが現世に現れて呪い殺されるという内容の都市伝説。

 実際はただの普通のホラーゲームである。


『さてさて、今回は普通にプレイしていくんだけども、ついでにあの都市伝説が本物かどうかも検証していきたいと思いまーす』


 画面の中のアオモチは笑顔だ。

 生配信が開始して十五分。視聴人数は四桁から五桁になり、コメント欄も活発化してきた。スパチャという投げ銭の頻度も高くなっていく。


『お、スパチャありがとう。どんどん貢いでけえ? おっとアンネームド・ナイト君のお出ましじゃねえか』


 ゲーム画面には暗闇の中から甲冑姿の人物(?)が現れ、少しずつ手前に近づいてきていた。


『こっから戦闘に入るのか…? ちょっと一時停止するわ。トイレ行ってくる』


「なんでここで…」


 未華は騎士の登場にドキドキしていたが、何故かこんな場面で尿意を催したアオモチが画面からフェードアウトする。おかげでドキドキがおさまってきている。

 コメント欄は「おいおいタイミング悪すぎんだろw」「自由人アオモチ様だからしゃーないね」「日常茶飯事」と特にアンチもいないようだった。アオモチが生配信中に何の前触れもなく席を外すのは通常運転らしい。

 数分後、画面に再びアオモチが姿を現す。先ほどに比べて大分髪の毛が乱れていた。


『悪い待たせたね。ちょっと手洗いついでに顔も洗ってた』


 自由人すぎると未華は呆れる。アオモチはペットボトルを取って水を飲む。


『さて、プレイ続行だ! あれ、ボタンが押せない。キーボードが壊れたか…?』


 アオモチが画面外にあるであろうキーボードをカチャカチャと押している。背後、アオモチの部屋が映っており、扉も見えていた。その扉が少しずつ開いていく。

 背後の動きに気づいた視聴者たち。証拠にコメント欄が高速で流れる。

「何か後ろのドア少しずつ開いてね?」「幽霊?」「アンネームド・ナイトの呪いktkr」と多種多様なコメントが投稿される。

 やがて扉が全開し姿を現したのは西洋の甲冑姿の人物。そう、ゲーム画面に映る騎士とそっくりだった。所持している大剣まで。

「アンネームド・ナイト来てるやん」「アオモチ後ろ後ろ!」とコメントがアオモチに呼びかけるが、アオモチはキーボードを持ち上げて不具合の要因を探っているよう。

 騎士はゆっくりと大剣を携えてアオモチの背後へ回ると、大剣を持つ右手を大きく上げる。

 そして右手がアオモチに振り下ろされる。


『うっ』


 アオモチの表情がゆがむ。ゆっくりと横に倒れ、全身が机の麓に隠れて画面から見えなくなる。

 画面に残った騎士が握る大剣は先ほどと様子が違っていた。大剣にはべっとりと赤い血らしきものが付いていたのだ。

 未華は思わず「ひっ!?」と声を上げる。

 騎士はゆっくりとマウスに手をかけると、その瞬間生配信が終了した。

 未華もコメント欄の視聴者も、全員が困惑していた。


「本当に死んでないよね…? こういう演出…だよね…?」


 未華は呟く。今見た光景は一旦忘れて未華は目をつむる。そのまま眠気に襲われ、未華は夢の世界へと旅立っていった。


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