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不運探偵は今日もビビりながら推理する  作者: MOGI
File.1 十七夜高校密室事件
12/22

File.1-9 扉と黒い水

 弁当を平らげた守は同じく昼食を終えた彩瞳を連れて隣の教室へ向かった。その目的はいつもと感じと違うという吟宮に話を聞くためである。

 吟宮が所属するクラスの教室を覗いて中を見渡してみるが、姿は無い。

 近場にいた男子生徒に吟宮の所在を聞いてみたが、昼休みが始まった途端すぐに教室から出ていったのでわからないということだった。


「昼食も食べずにどこかに姿を消したっていうのかよ…」

「そ、その吟宮さん、という方は昨日一度お会いしただけですが…」

「うん。吟宮は社交的な奴で正義感が強い滅茶苦茶良い奴だよ。だからそいつが元気なくてどこかに消えるってこと自体が変なんだ」


 守の心中はモヤモヤとした、霧が晴れないような悶々とした気分になった。

 この場で手をこまねいている訳にもいかないので、二人は生徒会の元を訪れて協力を仰ぐことに。

 事情を話すと冥府瀬は考える仕草をし、回里は眼鏡をくいとあげ、晌は興味なさげだった。


「事件とは無関係な気もするけど…まあ乙鳥君が言うなら…」

「ありがとうございます冥府瀬先輩」


 冥府瀬という強い味方を手に入れた守と彩瞳。その後は三人がかりで手分けして昼休み終了まで学校内を捜索することに。

 冥府瀬が言ったように、今朝の事件と吟宮の失踪(失踪かも分からない)が関連しているのか不確定であり、吟宮探しも本格的なものではない。ただ、友人として吟宮の異変が気にかかるのである。


 ~~~~~


「…あら、大丈夫?」


 守から頼まれた吟宮探しの途中。冥府瀬は屋上へ続く扉の前でせわしなく動く女子生徒を発見した。よく見てみれば扉前の床が水浸しで、傍らにバケツが転がっていた。


「す、すいません。掃除してたらバケツをひっくり返しちゃって…」

「雑巾足りる?」

「この一枚しかなくて全然足りなくて…」

「じゃあ何枚かもらってきてくれるかしら。私が後処理しておくわ」

「あ、ありがとうございます!」


 そう言って女子生徒は小走りで雑巾を取りに階段を下っていく。

 後ろ姿を見送った後、小さく誰にも聞こえないようなため息を一瞬つく。完璧な生徒会長を演じる上で学校内で発生する異常事態に適宜対応する力が必要だ。そんな彼女もずっと気を張っているためか、時折人の目がないところでは気を抜いている。

 一枚のみの雑巾を手に取って、広がる汚い黒い水を拭こうと少し移動する。踏み場がないので仕方なく片足を水たまりに突っ込む。汚れた水飛沫が散って嫌な気持ちになりながらも扉の前まで。一瞬、屋上へ続く扉が視界に入る。


「え?」


 思わず声が漏れる。屋上の扉の隙間から、黒い水とは別の液体が零れていることの気づく。それが零れているのではなく、屋上から流れ出ていると理解するのは容易だった。同時に液体が赤いことを脳が認識する。


「…」


 雑巾を床に置くと、冥府瀬は無言で扉を開けようとする。鍵はかかっていない。だけども扉は途轍もなく重い。まるで何かがつっかえているかのうように。


「…まさかね」


 先ほどの現場の情景が思い浮かぶ。

 扉を押す腕に力を入れて、少しずつ扉を開ける。

 見える面積が広がっていく屋上の床。赤い液体の面積も連れて大きくなる。

 やがて扉は全開となり、押してもそれ以上奥へ進まなくなる。

 恐る恐る、冥府瀬は屋上へ足を運び、扉の裏を見る。


「……嘘……」


 ただ一言。

 扉の裏には、横を向いて倒れたまま動かない人間が一人。その人間の顔は、今自分たちが探している人物のものだった。

 吟宮柊。守の友人で様子がおかしかった彼は、普段誰も立ち入らない屋上で腹部を真っ赤な血で染めて命尽きていた。

 脳の処理が追い付かなった。知っている人物の死、そして立て続けに身近で事件が起きている。目の前が情報過多で思考回路が壊れかかっている。

 そのせいか、背後から階段をのぼってくる足音には気づかなかった。


「ど、どうされたんですか…?」


 雑巾を数枚持った先ほどの女子生徒が戻ってきており、屋上で棒立ちしている冥府瀬を発見して声をかける。声をかけられて、ハッと冥府瀬は我に返る。こうしてはダメだと、自身に活を入れて女子生徒の方に向き直る。

 女子生徒も床の血だまりを認識して言葉を失う。


「こ、これって…」

「よく聞いてほしい。今学校内を走り回っている生徒が二人いる。その二人に伝言をお願いしたいの」


 冥府瀬は判断した。女子生徒を現場に長い間留まらせるのはまずいと。

 彼女には、守と彩瞳への伝言を依頼する。

 伝言を受け取った女子生徒はすぐにまた階段を下りていく。

 再び冥府瀬は吟宮の亡骸に視線を戻す。まずは状況整理。屋上の扉は非常に重かった。つまり、屋上の外側には何か重量のあるものがつっかえていた。その何かというのは紛れもなく、吟宮の遺体だ。


「……偶然かしら…ね」


 密室。その漢字二文字が過る。しかし、埋火の時とは全く状況が違う。


「え、それって!」


 突然聞いたことのある声が耳を刺激する。

 その声の主は、京だった。


「京君…? 何でここに」

「さっき慌てた様子でレディが走り去るのとすれ違ったから、何かと思って来てみたら…。まさか、また誰かが死んでるなんて」


 動かなくなった吟宮を見ながら京は声を震わせて言う。

「でも」と冥府瀬は前置き。


「これが他殺かどうかはまだ分からないわね…」


 冥府瀬の目線は、吟宮の左手に握られたアイスピックを捉えていた。

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