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ウヅキとお月見

"トン トン トン トン"

テンポのいい音が聞こえ、味噌のいい香りが鼻腔をくすぐる。

音と匂いに誘われて意識が浮上してくるが、まだまだ夢心地で、身体がフワフワ浮いているような感覚がする。


「ん、、、ん~ん、、すぅ~」

「ウヅキ、そろそろ起きなさーい。」


暖かい布団に導かれるように再度夢の中へ落ちそうになるが、私を呼ぶ声が聞こえて、徐々に目が覚めて来る。


「ふぁ~ぃ、、おきなきゃ、、、んんー!」


二度寝に向かおうとする身体を無理矢理起こして、背伸びをする。

眠っている間に固まった身体が解れて、なんとも言えない気持ちよさを感じる。

ふと隣を見ると、畳まれた布団が目にはいる。


「お兄ちゃんはもう起きてるんだ、、。

 ふぁ〜、、よし!私も起きないと。」


少しダルさが残る身体を動かしてタンスに近づくと、パジャマから服に着替える。


私はウヅキ、今年10歳になる女の子で、両親とお兄ちゃんの4人で暮らしている。

趣味は石集めで、学校が終わると河原に向かって綺麗な石や珍しい形の石を集めている。


着替え終わってリビングに向かうと、お母さんが朝ごはんの準備をしてくれていた。


「おはよー、おかーさん。」

「おはようウヅキ。」


お母さんの名前はサクラ、お料理が上手でいつもおいしいご飯を作ってくれる、大好きなお母さんだ。

お父さんとはこの村出身の幼馴染みで、いつも一緒に遊んでいたらしい。


「ご飯が温かいうちに食べちゃいなさい。お父さんたちはもう出ちゃったわよ。」

「はーい!」


今日は十五夜。

私が住む村は十五夜の夜に特別な料理を食べる風習があり、村総出で準備をすすめる。

家はお団子を作る担当で、お父さんとお兄ちゃんはその準備のため出掛けており、私もお団子を作る手伝いをする。


私は急いで朝ごはんを食べると、支度をしてお父さんたちがいる倉庫に向かった。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



「お父さんおはよう!」

「おはよう、ウヅキ。よく眠れたか?」

「うん!バッチリだよ!」


急いで倉庫に向かうと、お父さんは釜戸でもち米を蒸しているようで、湯気を見ながら火の調整をしていた。


お父さんの名前はシンノスケ、真面目で仕事を頑張っているが、家族との時間も大事にしてくれる、優しいお父さんだ。


「おはようウヅキ、今日も元気だな。」

「おはよう、お兄ちゃん!

 今日はサボらないでね!」


倉庫から臼を載せた台車を押しながら、挨拶してきたこの人はヒビキお兄ちゃんだ。

私より5歳上で陸上部に入っている。


走るのがすごく早いんだけど、お調子者かつ気分屋で、気がつくと休んでたりどっかいってたりする。

真面目に走ればすぐエースになれそうなのにもったいない。


「私も手伝うよ、何をすればいい?」

「そうだな、じゃあ杵を濡らすための水を用意してくれ。水場に桶があるからそれにいれて持ってきてくれるか?」

「わかった!」


私は倉庫の脇にある水場に向かうと、桶に水をいれた。

私の家は米農家で、この日のために特別なもち米を栽培していた。

今夜はこのもち米を使ったお団子が主役になる。

おいしいお餅を作るぞ!と気合いを入れながら桶に水をいれて、臼の近くに配置する。


「うんしょ、うんしょ。

 お父さん、持ってきたよ」

「ありがとう、杵を桶につけといてくれ。

 俺は蒸したもち米を持っていく。

 ヒビキ、手伝ってくれ!」

「はーい。」


折角なら私も一緒に餅を運びたかったが、蒸したてのもち米は火傷する程熱い。

下手に手伝って火傷をしたら二人を心配させてしまうので、私はお父さんの指示どおりに杵を桶につけ、臼から少し離れて二人の作業を見守る。


二人は蒸し器を慎重に持ち上げると、臼の近くまで移動し、もち米を臼に移した。

私は少しはなれた位置から臼のなかを除くと

そこには蒸し上がって湯気を立ち上らせる【青いもち米】が入っていた。

 

「わぁー、しっかり蒸し上がってる。

 これならおいしいお餅を作れそうだね。」

「そうだな。

 熱いうちにつかないと、美味しいお餅は作れないからな。

 手早く進めるぞ。」

「はい!」

「ヒビキも、準備はいいか?」

「あぁ、大丈夫。」


私は袖を捲って気合いをいれた。


「まずは全体を均一に潰していこう。

 ヒビキは杵で押し潰してくれ。

 ウヅキは杵に餅がついたときに、剥がしてあげてくれ。

「わかった。」

「はーい、任せて!」


お兄ちゃんは杵を持つと、全体を押し潰していく。

もち米が潰れて粘りが出てくると杵から離れにくくなってきたので、その度に私が杵についたもち米を落として杵を濡らした。


「うん、いい感じだ。端の方はもう少し潰しておこうか。」


時折お父さんから指示を受けながら潰していくと、徐々に餅っぽくなってきた。

そこまできたらようやく杵でつき始める。


「最初は強く振り下ろさなくていいからな。」

「わかった。」


"トス、トス、トス、トス"

お兄ちゃんは杵を振り下ろして、全体的に餅をついていく。

餅をつくたびに小気味良い音が鳴り、私も気分が盛り上がって来る。


私は引き続き杵に餅がつきそうになると水で濡らして、お父さんは定期的に餅を折り畳んだりとサポートしている。


「うまいぞ、徐々に力をいれて振り下ろしていこう」

「はーい」


お兄ちゃんはお父さんの指示を受けて、杵を振り下ろす手に力をいれていく。

振りかぶる高さもだんだん上がってきて、

頭の真上まで杵を持ち上げて振り下ろすようになってきた。


"ドス!、、、ドス!、、、ドス!"

大きく振り下ろす音も重いものに変わり、感じる衝撃も大きくなってきた。

どんどん餅が滑らかになってくるのを見てるのも楽しいが、だんだんと私も餅をついてみたくなってきた。


「ねえお父さん、私もついてみたい!」

「そうか、じゃあ交代してやってみようか。

 ヒビキ、ありがとう、少し休んでなさい。」

「おーけー、ちょっとあっちで休んでくるわ。」


お父さんにお願いすると餅つきをやらせてくれることになった。

お兄ちゃんは杵を私に渡すと、倉庫の前にある椅子に向かった。


「よし、ウヅキ。

 最初はあまり上げないで、軽くついてみようか」

「はい!わかった!」


私は軽く杵を振り上げると、見よう見まねで振るった。


"ぺたん、、ぺたん、、ぺたん"


「思ったより杵が重い~!」

「ゆっくりでいいから、思ったようにやってみなさい」

「はーい!」


私は、お父さんに見守られながら餅つきを続ける。

お父さんは時々餅を畳んだり、杵についた餅を取ってくれた。


"びたん!、、びたん!、、びたん!"

慣れてくると勢いも強くなり、つく音が重くなってくる。

餅をつくのは楽しいが、ついたときの衝撃が思ったより大きくて、徐々に手が痺れてきた。


「うぅ~、手が痺れてきちゃったよー、、。」

「よく頑張ったな。後はお父さんがやるから休んでなさい。」


手が痺れてしまったことをお父さんに伝えるとつくのを代わってくれた。

私は、休んでいるお兄ちゃんの横に移動すると、お父さんは杵持って餅をつき始めた。


ズドン!!、、ズドン!!、、ズドン!!


私やお兄ちゃんが振り下ろした時よりも大きな音をたてて餅をついていく。


「わっわっ!お父さんすごーい!」

「ははっ、そうだろう。

 お父さん、昔から餅つきは得意なんだ。」


杵を軽快に振り下ろして何度も何度も餅をついていく。

すると、あっという間に全体が滑かになり、綺麗な餅が出来上がった。


「よし!そろそろいいかな。」

「美味しそうなお餅ができたね!」

「あぁ、ヒビキとウヅキが手伝ってくれたおかけだ。」


私たちが完成したお餅の前でお話ししていると、タイミングよくお母さんが沢山の容器を持ってやってきた。


「お待たせ、お団子を入れる容器を持ってきたわよ。」

「よし、じゃぁ冷える前に団子を作ろうか。

 ふたりとも、もう一頑張りだ。」

「はーい」「はい!」


お兄ちゃんと私はお父さんに返事を返すと、お団子作りに取りかかった。


餅はまだまだ熱いので手を水で濡らしてから、餅を千切って丸める。

大きすぎると食べづらいので、気持ち小さめに丸めていく。


「お母さん、こんな感じ?」

「そうそう、それぐらいで大丈夫よ。」


お母さんからお染み付きをもらったので、どんどんお団子を作っていく。

できたお団子をそのまま置くとくっついてしまうので、お団子に餅とり粉をまぶしてから容器に入れる。


黙々とお団子を作り続けていると、あっという間に大量のお団子が出来上がった。


「うん、沢山のお団子ができたね。

 ふたりともありがとう。」

「いっぱい作れてよかった!」

「うひー、やっと終わったー。」


途中からお父さんも参加したから思ったよりも早く出来上がった。

お兄ちゃんは朝からずっと手伝っていたから、流石に疲れたようだ。


「じゃあ、村のみんなに配ろうか。

俺とヒビキ、お母さんとウヅキに別れて配っていこう。」

「「はい」」「はーい」


お父さんの指示を受けて、私たちは二組に分かれてお団子を配り始めた。


「こんにちは!お団子を持ってきました!」

「あら、いらっしゃい。毎年ありがとね。」


みんなお団子を楽しみにしてたようで、手渡すと笑顔になって感謝の言葉をくれる。

夜も近いことから、私とお母さんは手早くお団子を配り、最後に村長の家に向かった。


「村長さーん、こんにちわー」

村長さんのお家は他より一回り大きくて、立派な作りをしている。


玄関を開けて声をかけると、奥から背の低いお婆さんが姿を見せた。


「おやおや、こんにちは、ウヅキちゃん。

 よく来たね。」

「こんにちは、村長さん。」

「村長、お邪魔いたします。」


村長さんはこの村で最年長のお婆ちゃんだ。

私とお母さんは村長さんに挨拶して、袋に入れていた団子を取り出した。


「十五夜のお団子を持ってきましたの。

 私とお兄ちゃんも作るのを手伝ったんだ!」

「おぉ、ありがとね。

 ウヅキちゃんとヒビキくんが作ってくれたお団子か。

 それはすごく美味しそうね。」


村長さんは微笑みながらお団子を受け取った。


「サクラさんもいつもありがとうね。

 お礼のお酒はいつもどおり多めに包んであるから、持っていって。」

「いいえ。いつもありがとうございます!」


村長は玄関脇に置いてある包みを指しながらお母さんに言った。

他の家には1瓶ずつ配られるが、お団子を用意しているうちは毎年2瓶頂いている。

お酒が好きな両親は毎年これを楽しみにしていた。

お母さんは、お礼を言いってから嬉しそうにお酒を手にとる。


「そうだ、ちょっと待っとくれ」


村長はそう言うと家の奥に向かい、少しすると手のひらサイズの小箱を持ってきた。


「はい、お手伝いしてくれたウヅキちゃんとヒビキくんにもお礼。

 仲良く分けるのよ。」

「わぁー!ありがとー、村長さん!」


村長はそう言って私に小箱を差し出した。

中には色とりどりのかりん糖が入っていて、私は少しビックリしたが、すぐに嬉しさが溢れてきて、お礼をいいながら小箱を受け取った。


「子どもたちにも頂いて、ありがとうございます。」

「いいのよ、頑張ってくれたんだから。

 今日はご苦労様。ゆっくりお月見を楽しんでね。」

「はい、村長もお楽しみください。」


お母さんと私は村長と少し話をすると、頂いたお酒とかりん糖を持って帰路につく。



「ただいまー!」


家にいてお父さんとお兄ちゃんを探すと、二人は居間でお茶をのんで、疲れを癒していた。


「お帰りウヅキ、お母さん。」

「お帰り~」

「ただいま、お父さん、お兄ちゃん」


挨拶を言いながら、私とお母さんも居間に入って座る。


「ヒビキ、ウヅキ、ふたりともお疲れさま。

 餅つきを手伝ってくれてありがとな。」

「いいよ、毎年のことだからね」

「うん、すごく楽しかった!」

「ありがとね。

 ふたりともいっぱいお手伝いして疲れたでしょ。

 少し休んできたら?」


お父さんとお母さんから休むように言われると、途端に眠気が襲ってきた。

1日お手伝いしたので、疲れが溜まってしまったようだ。


「う〜ん、そうだね。部屋で少しだけ寝てくる~。」

「俺はこのまま休憩してるよ。」


私は眠い目を擦りつつ返事を返すと、部屋に戻って布団をひくと、横になった。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



ふと目を覚ますと外はまっくらになっていた。

少し休憩するつもりが、長く寝てしまったようだ。


少しボーッとしてからはっと我に返り、みんながどこに居るのか探るため【長い耳】をすますと、

屋上の方から楽しそうな声が聞こえた。


「え!まさか!?」


部屋を出て、【跳ねるように】移動して屋上に向かうと、お父さんとお母さんはお酒を飲んで、お兄ちゃんはぼーっと空を眺めていた。


「もう!ずるい!私を起こさないで先にお月見はじめちゃったの!?」


「いやぁ、気持ち良さそうに寝てたからな。」

「もう少ししたらお越しに行くつもりだったのよ?」

「少しくらい寝過ごしたって大丈夫だよ。

 月はどこにも行かないしな。」


私が少し怒りながら近づくと、お父さんとお母さんは少し申し訳なさそうな顔をしつつ謝ってくるが、お兄ちゃんは相変わらずマイペースに答えてくる。


「うぅ~、いいよ。休ませてくれてありがとね。」


私も、三人が私を気づかって休ませてくれたのがわかるので、本気でおこってはいない。

お礼を伝えつつお父さんとお母さんの間に座ると、お父さんが、お団子を渡してきた。


「ウヅキが一生懸命お手伝いして作ったお団子だ。

お前から食べなさい。」

「いいの!?」

「えぇ」

「ありがとう、いただきます!!」


私はお父さんから団子を受け取ると、勢いよくかじりついた。


「おいしー!」

「そりゃ良かった。」


いっぱいお手伝いして作ったお団子は、今迄食べてきたお団子よりもおいしかった。


「じゃあ、俺たちも頂こうか。」

「ええそうね、いただきます。」

「いただきます。」


私が食べるのを見守ると、お父さんとお母さんはお酒を飲みながらお団子を食べ始めた。

お兄ちゃんはお団子を噛りつつ、かりん糖もたべていた。


「お兄ちゃん、私にもかりん糖ちょうだい」

「あいよ、食べ過ぎるなよ。」


私は食べかけのお団子とかりん糖を空に掲げて、空に浮かぶ月や星に重ねる。


「いつかあの青い月に、私が作ったお団子を届けてあげたいな」


私たちは、空に輝く青い星(地球)や星を眺めながら、楽しいひとときを過ごすのであった。



おわり

今回はお読みいただきありがとうございました。

ここからは蛇足になります。


ウヅキたちは月ある村に住んでいるウサギの家族です。

この物語は、「月に住んでいる者から見れば、地球が月になるのでは?」との思いつきから書き始めました。

なので、月見団子の色は青色となっています。

また、登場人物はウサギや餅に由来しています。

ウヅキ(卯月):月のウサギだから

お母さん:サクラは桜餅から

お父さん:もち米の品種(新之助)から

お兄ちゃん:脚が早くてもすぐ休む = ウサギと亀から

村長:名前は削りましたが、もち純米の「千代の光」からチヨとする予定でした。

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