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第九章

 その夜、僕は夢を見ていた。


 僕は、見渡す限り草原だけが広がる開けた場所の真ん中にいた。そこにはそよそよと心地よい風が吹いている。足元を見ると春の野花があちこちに咲いていた。きっと今、ここは春なのだろう。そこにぽつんと置かれたカフェテーブルに、僕は猫のサンシャインと二人で座っていた。


 いつの間にか、サンシャインは僕の友達になっていて、人間の言葉を喋っていた。彼はレースがいっぱい施されたブラウスと深いグリーンのベルベットのジャケットとズボンをはき、見た目は、まるで中世イタリア貴族のようだった。見えないほうの目には海賊のような黒い眼帯をしている。僕たちは近所の人たちや、サンシャインの憧れの銀色の毛並みのメス猫のことや、生まれたばかりのパン屋の七匹の子猫のことを、カフェテーブルに二人で座って、お茶を飲みながら楽しそうに話していた。


 サンシャインは僕が用意したクッキーを頬張りながら、

「僕はこのジンジャークッキーがとっても好きでね、風味がたまらないよ。それに、このお茶。マーマレード入りの紅茶も美味しいよ。康平君、いつもありがとう」

などと、僕に向かって言うのである。僕はサンシャインに褒められて得意気になっていた。傍では、その様子を小さな妖精たちが、風船に掴まりながら空中に浮かんで眺めていた。


 そのうち、草原の向こうから、白いつば広の帽子と白いシルクタフタのワンピースを纏った女性が長い髪を風になびかせてやって来た。


「こんにちは」

「やあ、ノゾミ、こんにちは」


 サンシャインは、そうその女性とごく普通に挨拶を交わした。彼はそのノゾミという女性と知り合いなのか随分親しげに会話をし始めた。

 僕はサンシャインと違って、彼女のことをよく知らなかった。それに、風になびく長い髪の毛が邪魔をして、彼女の顔をよく見ることが出来ない。僕が彼女と話をするのを躊躇っていたら、その女性は僕に向かって言った。


「明日、あの子があなたに会いに来るから、必ず話しかけてね。きっとうまくいくわ。いい? きっとよ」


 「え?」と思った瞬間、目が覚めた。僕の手にはいつの間にか携帯が握り締められていて、「じゃあ、お休みなさい」と希の声がして切れた。

 僕は、寝ぼけた頭で「これは夢か現か幻か、一体全体どうなっているんだろう?」と思いながらも睡魔には勝てず、そのままベッドに倒れこんで眠ってしまった。


第十章に続く

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