第五章
開店当日の夜、くたくたになって泥のように眠り込んでいたが、喉が渇いていたのか真夜中に目が覚め、冷蔵庫のミネラルウォーターを取りにベッドから這い出した。
ブーブーブー
ダイニングテーブルの上に無造作に置いていた携帯が急に鳴り始め、僕は飛び上がった。
時計を見た。午前二時二十分だった。携帯を手に取ったが、またしても非通知で誰からの電話か分からない。
もしかして、昨日と同じようにあの希という子かもしれない。たいして親しい仲でもないし、こんな真夜中の電話など放って置けばいいものなのに、僕は吸い寄せられるように携帯を手に取り、受信ボタンを押した。
「はい……」
「もしもし、ごめんなさい。また、起こしちゃったね」
「……希ちゃん?」
「ええ」
思ったとおり、やはり希からの電話だった。
「いや、ちょうど今起きてたんだよ。喉が渇いていたから」
「そう、良かった」
「うん」
「今日、お店に坂口さんが来たでしょう?」
「え?」
「ほら、五十歳くらいの中年の男の人」
「ああ、お客さんの坂口さんか」
「ええ、あの人、ちょっと気を付けてあげて」
「ええ? どういう意味?」
「……ちょっと、知り合いなの。体調が悪そうだったから」
「ああ、そうなんだ。でも、坂口さんは今日来てくれたばっかりだから、今度来るのは一ヵ月先だと思うよ」
「ええ、分かってる。一ヵ月後でいいのよ」
「ああ、そう」
「いい? お願いね」
希はそう言うと、携帯を切った。
なんだ、変な電話! それにしても今日はたまたま起きていたからいいものの、二日続けて真夜中に電話してくるなんて、非常識極まりないではないか。そんな話なら、昼間に電話してくれればいいだろう!
寝ぼけていたのに急に腹が立ってきて目が覚め、ミネラルウォーターをがぶ飲みすると、ベッドに転がり込むようにして無理矢理目を閉じて寝た。
第六章に続く