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第二十八話

 その晩、またサンシャインの夢を見た。僕はいつもと違い、今度はサンシャインに最初から矢継早にあれやこれやと質問をし続けていた。


 君と希はいつ知り合ったの?

 君は僕の家族のことを知っているの?

 家族のことを知っているなら、母の名前を知っているね?

 母はどうやって僕に花を贈ってくれたの?

 望のことも知ってる?

 望は希と同じ顔をしているんだよ!

 彼女達は姉妹なの?

 希は向こうの国の人だと言っていたよね?

 向こうの国って何? ……もしかして!


 そう言ったとき、それまで黙って聞いていたサンシャインは「君の考えている通りだよ」と言った。サンシャインはいつものマーマレード入りの紅茶を飲んでいたが、カップをテーブルに置き、僕の目を見据えるとそう言った。


「……やっぱり、僕の家族はみんな死んでしまったんだ。向こうの国って、黄泉の国ってことなんだね」

「残念だけど、そうだね」

「水野聡子という名前を思い出したとき、もしかして母だけは生きているのかもしれないと期待したんだよ。でも母も亡くなっているなら、母はどうやって僕に花を贈ってくれたんだろう?」

「さあ、それは僕には分からないね」

「希に訊けば分かるかな?」

「そうだね、彼女なら分かるかもしれない」


 サンシャインはそう言うと、テーブルに置いていたカップを手に取り、再び紅茶を飲み始めた。僕はサンシャインに時刻を訊ねた。もう三時をとっくに過ぎていた。僕は辺りを見回した。それなのに影一つ見当たらなかった。今日は、希は来ないのだろうか?


 それから日が暮れるまで希を待ち続けたが、彼女は現れなかった。サンシャインは「タイムリミット」と一言言うと、まるで煙が消えるように姿を消してしまった。それと同時に僕の視界から草原も消え、代わりにホテルのカーテンの隙間から射す太陽の光が目に入った。

 隣を見ると望がすやすやと眠っていた。昨日、僕があんなに歩かせたせいで疲れているのだろう。望の安心しきって寝ている姿を見ていると、自分のことに手一杯で、彼女のことまで気付かってやれなかった自分を情けなく思った。




 一週間の休暇が終わると、またいつもの日常が戻って来た。いつもと変わりなく僕はお客さんの髪を切り、パーマをかけた。店は繁盛し、望との関係もすべて順調だった。それなのに僕の心の中にわだかまりがある。そんなわだかまりを気にしたところで、一体何になるというのか。このまま全部忘れてしまえばいい。望は僕と兄妹ではないと言っていた。だったら心配することなど何もないではないか。僕の過去に何があったとしても、それと僕と望との未来にどんな関係があると言うのか。

 一方望は、僕の心情に反して楽しそうに見えた。

「康平君と付き合い始めてから、性格が明るくなったと会社でよく言われるの」

 そう言って望は笑った。そう言われれば、あれだけシャイな性格をしていたのに、橋本君や上野さんにも自分からどんどん話しかけるようになったし、一緒にショッピングに出掛けても、初めて会話する店員さんに冗談を言えるまでになった。昔の彼女を思えば、まるで別人のようだった。


 けれども、僕は相変わらず夢を見続けていた。しかし、そこにはサンシャインも希もいなかった。いつも楽しそうに遊んでいる妖精さえいなかった。僕が草原に一人でぽつんと取り残されている夢だった。


第二十九話に続く

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