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第二十四章

 望が化粧室に立ち、テーブルに一人で取り残された僕は、ぼんやりと外の車の流れを見ていた。しばらくして望が店内の向こうから笑顔でやって来るのを見ていて、そういえばこんな風な光景を前にも一度見たことがあると思った。そう思ったそのとき、突然僕の頭の中に、幼い頃の記憶が蘇った。




 僕は弟と二人、父に連れられ、街のレストランで、ある人を待っていた。僕は七歳、弟は三歳だった。父はいつもよりめかしこんでいてそわそわしていた。弟はまだ幼く、夕飯を待ちきれずにベソをかいていた。父は「もう少しだから、我慢、我慢」と弟をなだめている。僕も弟と同じく随分不機嫌だった。父親から「今日、新しいお母さんになる人が来るから」と聞かせられていたからである。

 僕は本当の母のことをよく覚えていない。母のことは大好きだったが、僕が四歳のとき、家を出て行ってしまった。父は四方八方手を尽くして母をさがしていたらしいが、どんなにさがしても母の行方は知れなかった。何が父と母の間にあったのか分からないが、突然、母は僕の目の前から消えてしまった。そのことが余程ショックだったのか、気が付けば、あれだけ好きだった母との思い出が跡形もなくなっていた。当時、弟は生まれたばかりの赤ん坊だったので気の毒だとは思うが、思い出は消えたもののそれでも母の顔を覚えている分、僕のほうが哀れだったと思う。勿論、新しいお母さんが欲しくなかったわけじゃない。友達にはみんな優しいお母さんがいたし、僕はそれをいつもうらやましく思っていた。それでも、自分の母は実の母一人だと思っていたので、父に新しい母が出来るからと言われても簡単に受け入れられない自分がいた。


 約束の時間から十分経って、五歳くらいの女の子を連れた女の人が、レストランの入り口に現れた。父はその人を見つけると嬉しそうに手を振り「ここ、ここ」と言った。僕はその女の人を見てびっくりした。何故ならその女の人は、僕の保育園時代の担任の大好きな先生だったからである。僕は父に「どうして先生がいるの?」と問うと、父は照れながら「先生が新しいお母さんになる人なんだよ」と答えた。僕は嬉しいやらびっくりするやらで、その日から当分の間、頭が混乱していた。運動会や参観日に先生が僕の母となって来てくれるのが本当に嬉しかった。希もすぐに僕たち兄弟に打ち解けた。希は「私、ずっと兄弟が欲しかったの」と僕たち二人に抱きつき、僕はといえば妹が出来たことが嬉しくてたまらなかった。父も母も優しく、可愛い妹、弟に囲まれて僕も僕たち家族も幸せだった。




 そこまで思い出したとき、急に記憶がとび、いきなり僕の姿は孤児院にいる九歳の少年になった。孤児院に入る少し前までのことを思い出したいのに、どうやっても思い出せない。僕は頭を抱えていると、「どうかしたの? 頭が痛いの?」と急に望に声を掛けられて我に返った。



第二十五章に続く

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