第十五章
そんな不安をよそに、宮崎さんとの交際は順調だった。彼女とのデートはいつも月曜日の夕方だった。宮崎さんが僕の彼女になってから、僕は時々、お客さんもスタッフもいない店で彼女を待ち、彼女の髪を整えた。宮崎さんが持参してくる本は相変わらず、僕が読んでいる本と関連があって、僕は次に彼女が読むだろう本の予測が付くようになっていた。そのうち、見ているTVの連続ドラマや興味のある新作映画など、どんどん僕との共通点が増えていった。二人でいつも「不思議だね」と言って笑い合ったけれど、僕は何かしっくりこないとでもいうか、どうしてそうなるのか、はっきりとした理由を突き止めたくてたまらなくなった。
双子霊なんて本当に存在するんだろうか? 同時期に生まれると言っても、僕と宮崎さんの年齢差は二歳ある。ネットで検索してみたら、二年どころかもっと年が離れている場合もあるという。信じていないわけじゃないけれど、だからと言って僕には霊を見た経験なんて一度もないから、霊の世界は存在するのだという確信は持てなかった。
「ねえ、康平さん、もう考えるの、やめましょうよ。いいほうに考えればいいじゃない?」
居酒屋で焼酎のソーダ割りを飲みながら、心配そうに僕の顔を見て宮崎さんが言った。
「それに、『宮崎さん』って、私のことを苗字で呼ぶの、やめて貰えます?」
「ああ、そうだね。変だよね。じゃ、宮崎さんはなんて呼ばれたいの?」
「望」
「え? 宮崎さんて、ノゾミって名前だったっけ?」
僕がそう言うと彼女はびっくりして言った。
「そうよ。もしかして、知らなかったの?」
「そうだ、希望の望って言う字だよね。たしか、カルテに書いてあった。宮崎さんもノゾミっていうんだった……」
「わー、ひどーい。誰かの名前と混同しちゃってるんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんだよ。でも……」
「でも、なに?」
僕は真夜中にかかってくる希からの電話のことを望に話そうかどうか迷っていた。こんなことを彼女に話したら、ますます変な奴に思われるに違いない。けれども、望なら分かってくれそうな気もする。
「あのさあ、また、変な話をするけど、聞いてくれる?」
僕は思い切って望に打ち明けようと決心した。
「ええ? またなの?」
「……うん」
「……それで?」
「実は、時々、真夜中にある女の子から、携帯に電話がかかって来るんだよ」
「知り合いの子なの?」
「いや、それが知らない子なんだよ。しかも非通知でかかってくるから、こちらから向こうにはかけられない」
「ふーん」
「それで、こっちは彼女のことを何にも知らないのに、向こうは僕のことを何でも知っているみたいなんだよ」
「ストーカーとか変な人じゃないの?」
「僕もそれを考えたんだけど、でも、電話の内容はごく真面目な感じなんだよ」
「例えば?」
「電話がかかってくるのがいつも午前二時頃だから、僕はいつも寝ぼけててあんまり良く覚えてないんだけど。えっと、そう言えば、望のことを言ってたよ」
「ええっ、やめてよ、恐いわ」
「いや、彼女、僕を励ましてくれたんだよ」
「どういうふうに?」
「明日、君が店に来るから、話しかけろって。絶対うまくいくからって言ってたよ」
望は言葉もなく、ただポカンと僕の顔を見つめていた。僕は「どうかした?」と彼女に訊いた。
「ねえ、どうして彼女には私が明日、お店に来るってことが分かっていたの?」
そう言えば、そうだ。絶対おかしい。望に言われて初めて気付いた。希は「あの子」と言っていたが、どう考えても「あの子」は望だった。いつも希からの電話は真夜中で、頭が半分寝ていてはっきりしなかったせいもあるが、どうして希から電話がかかってくると彼女との会話の後に、しっくりこない不思議な感覚が残るのか、ずっと引っかかっていたのである。それなのに、その会話をよく覚えていないせいか、深く考えたことがなかった。知らない人から大きな花を贈られたり、僕と望との不可思議な一致があったり、それに毎日毎日仕事が忙しすぎて、そのことを考える余裕が全然なかった。
けれども、希から言われたことで、どうしても忘れてはならないことがあった。あの坂口さんのことである。夢の中で希に言われたことが、次々と本当のことになっていったのだから、坂口さんのことも、何か重要な意味があるに違いない。彼のことは、どうしても捜し出して無事を確かめたかった。僕の店に来てくれなくても、彼が元気ならばそれでいい。
第十六章に続く




