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第十四章

 サンシャインを開店してから四ヶ月が経った。開店当初より客足が落ちたものの、毎月の決まった支払いをしても十分に利益が出るくらいに店は繁盛しており、橋本君と上野さんにもどうにか夏のボーナスも出せたし、経営状態は順風満帆だった。門脇のおばちゃんや波多野さんも二度目の来店を果たしてくれたし、前の店の常連のお客さんも随分多くの人が定着してくれたようだった。

 カルテを整理しながら、お客さんの顔をいろいろ思い浮かべていて、あの無口なサラリーマンの坂口さんが開店当初だけで、その後一度も店を訪れていないことに気が付いた。坂口さんは短髪なので、以前は頻繁に髪を切りに来てくれていたのに、その坂口さんをここ最近、見かけていないのは残念なことだなと思い少し落ち込んだ。

 いくら前の店で僕を指名してくれていたとはいえ、店が変わると新しい店に来なくなるお客さんはいるものである。坂口さんのことを頭に浮かべていたら、急に真夜中の電話のことを思い出した。あのとき、あの希という女の子は坂口さんのことを「気を付けてあげて」と言っていた。そのことを思い出したとき、妙な胸騒ぎがした。


 僕は、今日の最後のお客さんが帰ると、急いで顧客の住所録を捲った。坂口さんの住所はK市とだけ書かれてあった。K市といえば他県で、隣県とはいえここから随分と離れたところだった。一体全体何故? 他県から通ってくれるお客さんなんて坂口さん以外、一人もいない。坂口さんは、営業マンだから、そりゃあ内勤のサラリーマンより行動範囲は広いだろうけど、それにしても家から遠く離れた店の常連になって、髪の毛なんて切るものだろうかと思った。電話番号は住所録には書かれていなかった。会社の名前もソーラー発電機を売る会社としか聞いていないし、これでは手の打ちようがない。いろいろ悩んでいる僕のそんな様子を見ていた橋本君は「どうかしたんですか?」と心配して訊いてくれたが、こんな根も葉もないあやふやな不安を彼に打ち明けたところで何になるのかと思い、「いや、別になんでもないよ」と言った。



第十五章に続く

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