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第十二章

 子供の頃、僕は道を歩くとき、大体において下を向いて地面を見ながら歩いていることが多かった。孤児院で育ったせいか、お小遣いも少なく欲しいものもあまり手に入らなかった。小さな子供たちは、泣いて先生に欲しいものをねだったりしていたが、小学生ともなると、さすがに自分のポジションというものをみんなわきまえるようになったりしていて、僕もその例外ではなかった。だから、学校帰りの途中、道に落ちている団栗や石ころを拾ってビー玉やおはじき代わりにして遊んだ。それ以来、高校を卒業するまで、つまり孤児院を出るまでその変な癖は直らなかったが、田舎から都会に出てきて専門学校に通うようになって、急に上を向いて歩くようになった。都会にはアスファルトしかないし、落ちていても塵しかないし、第一、都会には驚くようなネオンや看板があったり、人がうじゃうじゃ湧いて出てきたり、とにかく下を向いてフラフラ歩いていると、絶対に人や何かにぶつかった。


 僕の店がある「星空通り」は、そう珍しい看板もなく大して人通りもないが、さっきも言ったように、僕はこの通りの店並みを眺めて歩くのが好きだった。「スニーカー屋」や「インド」も面白いが、この通りには、新しい店の隣に戦後からずっと続いているような店があったり、店の壁には懐かしい昭和の鉄製の看板や店内に古いポスターが残っていたりして、いつもそれらを眺めてはノスタルジックな気分に浸ったりするのが好きだった。

 その中で、そう古いものでもないらしいが、たぶん二十年くらい前のもので、ランドセルを背負う小学一年生の少女の愛らしい笑顔が印象的なポスターがあって、その少女の笑顔にいつも心を奪われている自分がいた。何故だか僕は、この少女のことをよく知っているような気がしていたのである。

 鞄屋のショーウィンドウの前で立ち止まって、ぼんやりとそのポスターを眺めていると、年配の女店主の福山さんがハタキを手にやって来て、「何を眺めているの?」と僕に話しかけてきた。


「このポスター、いつぐらいのものなんですか?」

「ああ、これ。これねぇ、十九年前のものよ。うちの店を改装したときに、貼ったものだから」

「そんなに前のものなんですか?」

「そうなの。剥がそうと思うんだけど、この女の子が可愛くて、つい、もったいないと思っちゃうのよ」

「そうですね。この女の子、可愛いですよね。でも、この子、ランドセルだけじゃなくて何か他のコマーシャルに出てなかったですか? なんだか見たことあるような気がするんだけど……」

「そうだったかしら? そういえば、テレビのお菓子のコマーシャルにも出ていたような気がするわ、ほら、ハニーチョコレートの」

「そうですか」

と言ったものの、福山さんは、彼女とよく似た別の子供タレントの少女と勘違いして言っているのを僕は知っていた。


第十三章に続く

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