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君と出会って……後編

≪グウェン視点≫



母さんと、もう二度と会うことが叶わなくってしまった。

そんな現実を、僕は簡単に受け入れることが出来なかった。


絵を描こうと思わなくった。

というより、描こうと思っても、涙で絵の具が滲んでそれどろではなかった。


けれどある時、自分は絵を描かなくていけないと、そんな使命感に駆られるようになった。

母さんが大好きだと言ってくれた僕の絵を、空の上から母さんに見て貰うんだと、自分を奮い立たせた。


だから描いた。

描いて描いて、がむしゃらに描いた。

でも……描くたび描くたび虚しいだけだった。


満たされなかった。

描いている絵はとっくに完成しているはずなのに、何かが足りない。

目を通してみれば色があるはずの絵が、『心の目』を通してみてみると灰色にみえた。


それはまるで、絵ではない、何か空虚なものを見ているようだった。

これは僕の絵ではない。

そんな想いを抱かせた。


それでも僕は、絵を描き続けた。


僕の絵を、大好きだと言ってくれた人のために。

僕に才能があると言ってくれた人のために。

僕のことを特別だと言ってくれた人のために。

僕を宝物だと言ってくれた人のために……。


その人のために描き続けた。


そうしていれば、大好きなあの人が、また褒めてくれる気がしたから。

きっと見ていてくれていると信じたから。

見えないだけで側にいてくれているはずだから。

待っていればきっと聞こえてくるのだと思った。


母さんの、綺麗で聡明な優しいあの声が。


けれど……いつまでたっても聞こえてこなかった。


……そうだった、あの人はもういないのだ。


その時になってようやく気付いた。

どうして自分の絵が何か足りないと思うのかを。


あの人が、僕の絵を褒めてくれる言葉。

それがあって、初めて僕の絵は完成するのだと分かった。


それ以来、僕は蛇足でしか描けなくった。

いつまでも完成しない絵を。


でもそれでも良いと思った。


僕が向こうの世界であの人にあった時。

その時、もしも絵の腕が落ちていたらあの人に顔向けができないから。

あっちでたくさん見て貰えば良いんだ。

そしてたくさん褒めて貰えば良いんだ。


それまで、僕は描き続ける。

例え完成しない絵であっても。


最後に母さんにみせた絵よりも、もっと上達した絵を見て貰えるように……。





――――


その日もいつものように一人、美術室に籠っていた。


いつものように絵を描いていた。

筆とまるで一心同体になったように手を動かしていた。


そんな時に、君と出会ったんだ。


ミシェルといった名前の子。


その子に、今僕が描いている絵を見せて欲しいと頼まれた。

特に断る理由もないのでみせた。


そしたら彼女が「素敵な絵をありがとう」と言った。


正直照れくさかった。

今まであの人以外に絵を見せたことがなかったから、こうして間近で他の人に感想を言われるのが恥ずかしかった。


と同時に、彼女のその言葉をどこかで言われていたような気がした。

昔、誰かに同じことを言われたような、そんな気が。


彼女は僕に、将来は画家になるのだろうと聞いてきた。


正直画家になるつもりはなかった。

それに、騎士団団長である父さんからは「お前は騎士になれ」と言われていた。

僕もなんとなくそうなるつもりだった。


だからそのありのままを彼女に伝えた。


そしたら彼女が、「そんなのダメよ!」と言った。


一瞬、その意味が分からなかった。

そして彼女はこう続けた。


「だって貴方には才能がある。誰もが才能に恵まれて生まれてこられる訳じゃないのよ。それなのにあなたはその才能を発揮しようとしないだなんて。そんなの絶対ダメよ! だって、こんなに素敵な絵が描けるのだから……。だって、あなたは特別なんだから……」


僕は彼女のその言葉に驚いた。


「あなたには才能がある。だってあなたは特別だから――」


――脳裏に張り付いていたその言葉。

いつだったか母さんに言われたことと同じことを、彼女は僕に言った。


彼女にそう言われて僕はやっと気付いたんだ。

絵とは、それを描く人がいて、そしてその絵を見る人がいて初めて完成するものなのだと。


そうか。

僕の絵は完成しないんじゃない。

完成させようとしなかっただけだったんだ。


もっとたくさんの人に僕の絵を見て貰いたい。

より多くの人に、僕の絵を見て貰うことで、それでやっと完成されるのだから。

だからそのために僕は……画家になりたい。


ミシェル、君と出会って、やっと僕はそのことに気付けたよ。

君は、僕のそんな気持ちにはきっと気付きはしないだろう。



ありがとう、ミシェル。

僕の恩人であり、初めて好きになった人。


君と出会ったおかげで、僕の絵はこれでやっと、完成されたんだ……。

そのうちグウェンとお父さんとの後日談を投稿するつもりです。


皆様からの応援のほどお待ちしております。

作者のモチベになります。

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