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君と出会って……前編

≪グウェン視点≫



小さいころから母さんが大好きだった。


綺麗な人だった。

聡明な人だった。

そして、とても優しい人だった。



僕が四歳の頃だったか、母さんの似顔絵を初めて描いたことがある。

その絵を母さんに渡すときに、どう言われるかなと、子供ながらに少し緊張したのを覚えている。


「あの、お母さんこれ……。お母さんのために描いたんだ!」


その絵は、良くも悪くも子供が描いた絵。

今思えば、そのとき母さんは僕を傷つけないために、優しくこう言ってくれたのだと思う。


「あら、これがお母さんなの。とっても綺麗な色で描いてくれたのね。でも、私ってこんなに美人だったかしら?」


微笑みながらそんな冗談を言った母さん。


小さいときの僕は、それが冗談だと分からすに「お、お母さんはすごく綺麗だよ!」なんて言ったっけ。


そんな僕の言葉に、母さんが「ふふふっ」と笑った。


そして僕の頭を優しく撫でながら、母さんは「とっても素敵な絵をありがとう、グウェン。お母さん、あなたの絵が大好きよ。ねえ、またこうして絵を描いてくれないかしら? あなたが描く絵を、もっとたくさん見てみたいわ」と言った。


「うん! 僕お母さんのためにこれからもっと絵を描くよ!」


「ふふ、楽しみだわ」


――それからというもの、僕はもう夢中で筆と紙に噛り付いた。


色んなものをみて描いた。

絵を描いて描いて、たくさん描いた。

描くたび描くたび、母さんがその絵を褒めてくれた。


それがもう、僕には、たまらなく嬉しくて。

そして自分でも、絵の腕が上達していくのがわかった。


母さんも、僕の描いた絵をいつも褒めてくれるものだから、俄然描き続けてどんどん上達していった。


あるとき、いつもと違う構図の絵を描いてみたいと思った。

だからなんとなく、庭に生えていた木によじ登って、高い所からの眺めをみて描こうとした。


でも登っている最中にバランスを崩してしまい、木から落下してしまった。


「うわー、いたいよー!」と、ぎゃんぎゃん泣きじゃくる声が響いた。


「まあ、大変!」


その騒ぎに気付いた母さんが、駆け寄り、僕の身体をさすってなだめてくれた。


「もう痛くはないかしら?」


心配そうな顔で僕を見る母さん。


「うん、だんだん痛くなくなってきた」


「良かった……。ねえグウェンお母さんと約束して」


「なにを?」


「もう絶対に、危険なことはしないって約束して欲しいの」


「で、でも、お母さんに上からながめた景色の絵を見てほしかったから……。だから……」


それは子供ながらにどこか不服といった気持ちの言葉。


そんな僕の言葉を聞いて、ことの経緯を察したといった母さんが、

「グウェンのその気持ちはとっても嬉しいわ。

でもね、あなたが危険なことをしてもし怪我でもしたら、お母さんはとっても悲しいの。それにもし手に怪我を負ってしまったら、もう二度と絵を描けなくなるかもしれないのよ。そしたらもう、あなたの新しい絵を見れなくなってしまう。お母さんそんなの悲しすぎるわ。だからねグウェン、お母さんをもう悲しませないってお願いできるかしら?」


凛とした優しい口調で、諭すようにそう言った母さん。


「分かった。お母さんのこと、もう悲しませたりなんかしない」


「ありがとう、グウェン」


そう言うと母さんは僕を抱きしめ、そして痛みで流した僕の頬をつたう涙を拭いながら「忘れないでグウェン。

あなたには才能がある。だってあなたは特別なのだから。そして私の大事な大事な宝物よ」


そんな母さんの言葉を聞いて、僕はぎゅっと、母さんを強く抱きしめた。


「うん! お母さん大好き!」


――小さい頃から母さんが大好きだった。


綺麗な人だった。

聡明な人だった。

そして、とても優しい人だった……。


――けれど、母さんは病にかかり、突然帰らぬ人となってしまった。

今回、書きながら泣きそうになりました。というか泣いた。


引き続き誤字脱字のご報告もお待ちしております。

また作品に関わることでご質問等ございましたらお気軽に。

答えられる範囲でお答えします。

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