第六十三話Part3
大きく……スケール感がおかしくなってしまった猩々。でも彼らは一体……ではなかった。元々家族みたいに、4体は居たはずだ。なのに目の前の猩々は大きくなったとはいえ一体だけに見える。
確かに四体分足したらこれくらいに……なるかもしれない。なにせ地獄の門から出てこようとしてる猩々はとても大きい。そもそも今出てる上半身の部分だけでも有にこの場の誰よりも大きい。
見上げるほどにあるのだ。上半身だけでビルのような……ビル三階分はありそうだ。ここは田舎だから幾代はもっと別のもので考えてるかもしれない。
学校とか。こんな田舎では大きな建物と言えば学校くらいなのだ。三階・四階だてが一番の大きな建造物。それが田舎あるあるである。あの猩々は今でもそんな田舎の学校に匹敵しうる大きさだ。いや、腕を伸ばせば優にその大きさは学校を超えてるであろう。
たった一匹になったのは合体したから……なのだろうか?
「ごめんなさい。私に関わらなかったら、ずっとこの山の守り神で入れたかもしれないのに……」
一般の……普通の人たちが失った伝承。それをあの呪術師の集落の生き残りである幾代は知ってた。けど、幼い時にそんな話、そして山にまつわる奉納なんかを見ただけで、この齢になるまで山の神だった彼らを見たことなんてのは今迄一度として幾代はなかった。
あのかつての故郷、生まれた村が祀ってたのは確かにこの猩々たちだったのだろう。でも人は勝手に恐れて、崇めて、そして災いを転嫁したいから祀り、神にする。その行為に彼等猩々たちは別に何かを思うことだってなかったんだろう。
ただ「人間がなにかやってんなー」――くらいだったんではないだろうか? それに大体の生物は人と関わってもろくなことにならない……と考えてるだろう。なにせ人は山を、川を海を荒らしてる。地球を荒らしてるのだ。
この猩々は普通のサルじゃない。それは確かだ。なにせサルにしてはゴリラよりもデカいし、賢い。跳躍力とかだって既存の生物の範疇を超えていた。きっと特別な……それこそ古よりも続くだろう古来の血……みたいなのを継いでたんだろう。
今の世の生態系の外の存在。人が科学によってはめ込んだ進化の外に……きっと彼らは居る。いや、いたはずの神なのだ。それがこんな悍ましくなってしまったのが、幾代は痛ましいと思ってる。




