第六十話Part2
「あな……たは、なに? なんなの?」
なんとか絞り出した言葉。幾世は息も絶え絶えだが、その存在を知ることは大切なことだと思ったんだ。だっていきなり『自分』が現れたんだ。ここ数日で確かに幾世は一生分でもお釣りが来るような不思議体験をやってきた。
自身の力の目覚めに始まり、妖怪の襲来。孫が鬼へと置き換わった。そして妖怪たちの戦い。
映画の中に入ったんじゃないのか? と思うくらいの怒涛の日々だったと言える。世界はおかしな方向へと進んでる。けどそれもなんとか受け入れてきた。元が幾世は呪術師の家系だった。だからこそ、受け入れる裾野があったと言えるだろう。
自分の力も妖怪も、そして鬼たちも……そして今もまた不思議な事が起こった。眼の前の自分。自分からでてきた自分……それが何なのか幾世にはわかってない。だから確かめないといけないって思った。
なにせなんか重要そうなことをいってる。これは幾世の妄想? けどそれはすぐに違うって否定してた。だって妄想ならもうずっとそんな中に言えると言えるだろう。力……も、妖怪も、鬼も……全ては妄想のような出来事だ。
でも……今やそれは間違いなく現実だと証明されてる。ならばこういうことだって……自分から自分がでてくることだって……あるかもしれない。幾世の言葉を聞いた薄い幾世は前を向いてこういった。幾世にはその後ろ姿しかみえない。
『私は、後悔した貴方。何も救えなかった可能性の私」
「それって……」
何言ってるのかよくわかんない幾世である。けど、今まで沢山の本を呼んできた幾代だ。それこそ物語もそうだけど、幾世はそういう本だけじゃなく、もっと知識を吸収するための本だって沢山呼んでた。田舎の小屋の離れ、それが幾世の集めた本でパンパンになるくらいには幾世は本の虫であった。
だから今の言葉でいくつかの事を読み取る。なにせそれを言ったのは自分自身なんだ。そう眼の前の存在はいった。それならその奥の意図だってわかるはず。なにせ目の前の存在は幾世なんだから。
(私の力は若返り……けど本質は自身の時間の操作といえる。いえ、姿形だってその時のものになってるし、そして私はその影響を他者へと及ぼせるわ。単純に若返ってるわけじゃない。
そこには複雑な工程がある。ただそれを意識してないだけで、時間とこの肉体の変化に、それに常識という世界の不可逆性のへの反乱……それらから考えると……眼の前の存在がいった私という言葉の真実が少しみえてくる。
『救えなかった可能性の私』……過去と今と……そして未来。世界は、選択でできている。そして選択しなかった可能性は常にある。もしも……その選択しなかった可能性を別の世界というのなら……この私はきっと後悔した未来の私……私の力が、それを表したんだわ)