第六十話Part1
ザワザワと幾代の耳の後ろの方がしてた。それはある意味でなつかしい感覚といってもいい。昔から嫌な事がある予兆のように、幾代の耳の後ろの所がザワザワしてた。でもそれは昔……遥か昔の子供のころには気づかなかったことだ。
今の歳まで生きてきて、ふと振り返ってみたら、そうだったのかもしれない。そんな風に思える程度の物。だって普通は自分に予知の力がある……なんて思わない。それに耳の後ろがザワザワって気のせいの方が確立としては高い。
もしかしたら耳の後ろを虫に噛まれたとか……そのなののほうがあり得ることだ。なにせ幾代たちがいるここは田舎で、山に囲まれた場所で暮らしてるんだ。そこら中に虫はいるわけで……そう考える方が普通だろう。
これが耳の後ろがザワザワではなく、もっとはっきりと未来が見える……とかなら、きっと違っただろう。もっと昔に気づいたはずだ。だから今考えたら……ってだけなんだけど、一度気になりだすと、そこばかりが気になってしまうのが人の性というものだろう。
集中の妨げになる……だから集中しないといけないのに、鬼女が飛んで行った方向をみてしまう。彼女なら問題ないと思ってる。
だって幾代も彼等、彼女たちの強さは実感してる。すでにここにいる無数の妖怪たちの中で力が大きな大妖怪を封じたわけで、それならば、もう鬼女とか鬼男を止められる存在はいない筈だ。
(だから、大丈夫……)
そんな風に言い聞かせてると、不思議な事がおこった。それは……幾代の体から、半透明な幾代が現れたのだ。そしてその幾代は少し先に進んで体を幾代の方に傾ける。
「なっ!? だっ――れ?」
手を伸ばした幾代。けど、その手は比較的近くに自分がいるにも関わらずに、届くことはなかった。なぜなら膝が折れてその場に地面に手をついたからだ。酷い脱力感がある。
そして動いてもないのに鼓動も激しさを増してた。
(なに……これ……力が……)
幾代の体に広がってるそれは疲労感だ。肉体を酷使した時にあるそれじゃなく、もっと別のそれこそ力を使い続けた時に来る特殊な疲労感。でも……いきなりこんな来るものでもなかったはずだと幾代は思う。
それにまだそこまで使って気もしてない。なのに……既に力が僅かで、限界が近いくらいになってる。幾代は意味が分からなかった。目の前の自分の事も……そしてこの疲労感も……
すると薄い幾代がいう。
『後悔したくないのなら、小頭達のところへ」
そういって半透明な幾代が指をさす。さっき鬼女がいった方向を。