第五十九話Part3
「なに? 私の事好きになったの?」
小頭に抱き着かれても、そんな反応をする鬼女。小頭が抱き着いたとして、鬼女にはなんのデメリットもないんだろう。けどその時だ。
「むっ……なるほどね。小頭、あんた正気じゃないのね」
鬼女の頬に傷が出来てた。そこから緑色の血が流れ出る。でもそれをペロッとなめて、鬼女は楽しそうに笑う。ピンチ――って顔じゃない。それもその筈だ。
「よっ! はっ!」
そんな風に声を出して鬼女は小頭にしがみつかれたままでも軽々と動いてる。小頭は暗い場所にあって、体とは切り離されてる。外の様子も壁に空いた穴……それか鍵穴から見てるような……そんな狭い範囲しか見えないから何が起こってるのかよくわかってない。ただただ、自分が邪魔にならなくてもよかった……とは思った。
これで自分のせいで鬼女が負傷とかしたら……そしてそれで彼女がまけるような事になったら……それこそ小頭は自分の事を許せなくなってしまうだろう。でもどうやらその心配はなさそうではあった。それにちょっと安心するが……鬼女の激しい動きの中で、なんとか状況を把握しようとしてると野々野小頭はみた。手を伸ばして来るお母さん……そして、お父さんにおじいちゃんの姿を……
三人ともその瞳は虚ろで、すぐに小頭にはわかった。
(お母さんたちも私と同じだ)
なにせ全員、あの仏像のような妖怪に傷をつけられた。そうなると、きっと同じように熱く溶けるような感覚もあったんだろう。そしてきっとお母さんたちも今の小頭と同じように体と精神を分断されて、誰かに……いやもう誰か……なんて曖昧にする必要なんてないだろう。
そう、小頭たちは操られてるんだ。傷を介して何かをきっと入れらた。そして体の制御を奪われたんだ。
「だめ! 気づいて!!」
そんな風に暗闇で叫ぶ小頭。でも、その言葉が鬼女に届くことはなく、丁度移動先でお父さんに捕まり、更にそこにお母さんがよりかかってくる。そしておじいちゃんも……それでも……それでもきっと鬼女なら強引に全員を振りほどくことだってできるだろう。
それだけの「力」が鬼女にはきっとある。けど彼女だって何も考えてないようなやつじゃない。もしも自身の力で強引に振り払ったらどうなるのか……それを考えたんだろう。
「ちっ、ちょっと邪魔なのよ……たく」
きっと鬼女はわかってたはずだ。仏像の仕掛けようとしてた攻撃に……とけど私達四人にその場に縫い止めれた鬼女はうごけなかった。いや動かなかった。
だからその攻撃を甘んじて受けることになり鬼女の背中から胸にかけて、太い獲物が貫通する。