第五十六話Part1
(まさか、こんな風になるなんて……)
そんな風に野々野小頭は思ってた。
「おそーい!」
頬を膨れさせて言って来るのは鬼女である。彼女は一人、門の様子を見るために残ることになってた。なにせ彼女は家族……として食卓を囲むことはできなかったからだ。だって鬼女はおばあちゃんの代わり……育代の代わりにこっちの世界にきたはずだった。けど……おばあちゃんはこっちにいるのだ。だから彼女の存在はややこしいものになってる。小頭は元から鬼男を鬼男として認識してたし、鬼女だってその延長線上で最初から小頭は鬼女として認識できてた。
けどほかの人たちは実は違う。お母さんもお父さんもおじいちゃんも鬼男の事を「お兄ちゃん」である野々野足軽だと思ってた。けどそれが普通だ。だって彼らは入れ替わってこの世界に、この星にやってきたのだ。そしてその立場が野々野足軽でありおばあちゃんであった。だから普通なら入れ替わったはずの存在に見えるのは当然。小頭は足軽の過保護な結界のせいでその世界が行った擦り合わせが脳に届くことはなかった。
だから最初から二人を別の存在だと認識できた。けどちゃんと世界が擦り合わせたお母さんたちは違う。鬼男の事を足軽と思い込んでた。見てたとしても、きっと脳が勝手に鬼男のその野々野足軽とは似ても似つかない背格好さえもすり替えてたんだろう。でも何がきっかけだったのかはわからないが――いや、きっとあの夢のせい――なんだろうが、少なくとも家族は皆『真実』を認識できるようになった。
おばあちゃんと鬼女を同一の存在と認識することもなくなったから、鬼女がお母さんたちの前に出ても,おばあちゃんだと思うことはもうない。
「ごめんごめん。けどたくさんご飯持ってきたよ」
とりあえず小頭はそういって鬼女の機嫌をとる。おじいちゃんとお父さんがなんか鬼女の一部に目を奪われてる気がするが……「こほん」――と小頭がわざとらしく咳をしたらわざとらしく挨拶してた。やっぱり男って……そんな風に小頭はちょっと思ってた。せっかくお父さんもおじいちゃんも株を上げたというのに、今のでちょっとだけその評価が落ちてしまったみたいだ。残念。
「変わりはないか?」
「こっちはね。そっちは……いろいろとあったみたいね」
鬼男の言葉に鬼女がこっちの人数が増えたのを見てそういったんだろう。やっぱり察せられるよな。だってここは危険だ。なのに、何もわかってない家族を小頭が連れてくるわけはない。そして小頭の母親たちの態度。どう考えてもちゃんと鬼女を認識してると彼女はわかってる。だから何か――があったんだと思った。