第五十三話Part3
野々野国人が誠実な人だと、彼女はわかってる。大学時代からの付き合いなのだ。周りが男女ともとっかえひっかえしてたときだって、二人はずっと付き合ってた。
「よく飽きないねー」
――とか周りからいわれたものだ。でも今ならそれも正しかったのかもしれない……と思う。もっといろいろと知っておくべきだったのかもしれない。彼女は自分の潔癖さに今、初めて気づいてしまった。彼なら自分を絶対に裏切ることはない……そんなことをおもってた。
他の女性に目移りすることはない……と思ってたんだ。だからだろう。彼女自身もきっと彼に……野々野国人に理想を抱いてたんだと思う。
だから……そうだから許せなかった。
「私は……」
まぶたを開ける前に浮かんでたのは野々野国人だった。彼の何でもない顔……決してイケメンではない。けど優しそうな顔が思い浮かんでた。そしてそんな顔を思い出してると、彼女の心にはなにか……そうなにか心に温かなものがこみ上げる。
「あれ? おきた?」
「え?」
聞こえた男の声。それは彼の……野々野国人の聞き慣れた声ではない。よく考えたらここはどこなんだろう? と彼女は思った。そして眼の前の男は誰? いや見覚えはある。そう、今日の飲み会にいた一人だ。それは覚えてる。でも……ここは? そう思って忙しなく周囲をみる。
丸いベッドに、ベッドの横には何やら異様な形の物体が色々とある。それに甘い匂いが漂ってて、いかにも……そう、いかにもな雰囲気のある場所だ。間接照明もなんかいやらしいし。
そして眼の前の男。彼は風呂上がりなのか、バスタオルを腰に巻いてる状態で、髪の毛をバスタオルで拭いてる状態だった。
(いいからだ……)
じゃない!? ――と首をブンブンと首をふる。眼の前の男は筋肉質な体をしてた。鍛えてるのがわかる逆三角形の体をしてる。腹もでてない。野々野国人は最近お腹が出てきてたな……とか思ってしまう。
「えっと……私達……」
「酔い覚めた? よかった」
にへら……となんか男性の鍛えられた体には似つかわしくない純粋な笑顔だった。子供っぽいといってもいい。でもそんな笑顔を観て彼女はやばいとおもった。だから近くにあった自分のバッグを掴んで立ち上がって彼の横を通る。
「あの! じゃあ私はこれで! ごめんなさい!!」
「え? 大丈夫?」
「大丈夫だから!」
伸びてきた手が怖かった。だからそれに捕まらないように脚を早めて彼女は逃げた。