第五十二話Part2
「そんな事……できるわけない」
そんな風に野々野国人はいう。電話の向こうの相手はそれに対して「できるわ」――と言ってくる。
「いやいや、無理だって」
もう一度野々野国人はそういった。できない……婚約者になるなんてそんなことを国人は全く考えたこともなかった。彼にとって彼女は一人だけだ。そもそもが今の彼女が国人にとっての初めての彼女だった。大学生で初の彼女なんて今の時代は遅いのかもしれない。けど国人はそんなの気にしてなかったし、それこそ彼は「運命」とか感じてた。
だから結婚を意識したのは今のあの子だから……なのだ。正直この電話の相手の事はキレイなお姉さんだと思ってるし、気軽に遊べる人だとは思ってる。遊べるというのは別に軽い男が言う感じの頻繁に付き合っては分かれる……みたいなことではない。
ただ単に付き合いがいい友達……くらいのニュアンスである。そう、あくまでも野々野国人にとっては彼女は友達でしかなく、それ以上に意識したことなんてない。だから婚約者? そんなのはありえない。
でもどうやら向こうはそうじゃなかったらしい。
「私の事、いいなって一度でも思わなかったの? そんな相手と式場に何度も行ったの?」
「それは、だから代わりだっただろ? 代わりに来てもらってたんだ。それ以上の意味なんて……ない」
「勝手に期待してたこっちが悪い。そう言いたいのね」
さっきまでちょっと浮かれ気味だった声音。それがワントーンくらい落ちた気がした。それに対して警戒心が国人には湧き上がる。
「期待というか……そういうのもするのも違うっていうか……」
そもそもが野々野国人的にはなんで期待? である。だって最初からそういう風に言ってたはずだ。それに婚約者の事だっていってた。ならば期待……なんて最初から持ってるのがおかしいと国人は思ってしまう。
「でも、式場に女性と二人で行くって事はそういう事でしょ? 他の人に聞いても何もない……なんて思わないわ。気があるから、私を誘ったのでしょ?」
「違う。俺は……そんなの……」
「でも周囲はそうは思ってない。そう、貴方の婚約者とかね」
そうだ……と国人は思った。野々野国人の彼女は彼女の言うようなことを思ってたんだ。だからきっと、普通は……そうなんだろう。なんの気もない相手と式場に行ったりはしない。それがきっと世間一般の声なんだ。