第四十七話Part6
懐中電灯の明かりを急いで少年は消した。一気に小屋の中は真っ暗になった。けどそもそもが野生児みたいな少年である。夜目だってそれなりにきいた。いや、そもそもがここは狭い小屋だとわかってる。だからとりあえず壁に耳を当てる程度で薄い壁の向こうの音が聞こえる。
外から聞こえるのはガサゴソと草木をかけ分ける音。そして更に人の話し声が聞こえる。人間だ。少年の顔は顔色が悪くなる。だってそうだろう。こんな時間に山の中を歩いてる奴らなんてのはあの村の人間しかない。今も猫を追ってるのか、それとも花月様からの命令の変更があって今は幾代を探してるのか……それはわからない。
けどどっちにしても見つかるわけには行かない……というのは共通する事実だろう。
(くるなくるなくるなくるな)
そんな風に少年は頭で祈ってた。暗闇の中、そっと触れてきたなにかに思わず「ぴょっ!?」――という声が漏れ出てしまった。だからだろう、涙目になりながらそっちの方を向く。
だってこの状況でこんな冗談はやめてほしかったのだ。なので見えなくてもちょっとは抗議するつもりだった。でもそれは出来なかった。だって触れてきた手から伝わる震え……それがわかったからだ。幾代はきっとこの真っ暗な中不安になって少年に触れて来た……と察してしまった。
そうなると、抗議なんてできるわけもなかった。むしろ安心させてやるべきなんじゃないか? って少年は少年なりに思った。だって彼は……
(俺は男なんじゃ)
……そういう考えだ。男は女を守るもの。そんな考えが少年にはあったのだ。だから自分だって不安で一杯だけど……少年は自身に触れてる幾代の手を握った。強く……けど壊さないように。
すると向こうも握り返して来てくれた。それだけで、受け入れてくれたんだと……そしてこの暗闇でも一人じゃないとちょっと心強くなった。守らないと行けないのに……少年は男の子だから女の子を守らないと……と思ってるのに、彼女の存在に支えられると思った。
「おい、そっちはどうだ?」
「この中とかか?」
「こんな所もう見てるだろ?」
そんな声がすぐ近くから聞こえてきた。まずいまずいまずい……そう頭で警報がなる。その時――
ガタッガタタ
――と横にスライドするタイプのドアが揺れた。思わず耳を離す。どうやら建付けが悪いからか、それとも古いからあまりスムーズではないのか……扉はガタガタというだけでなかなかあかない。
でもそのガタガタという音よりも少年と幾代の心音は早く……そして大きく鳴ってると二人は思った。