第四十七話Part4
結局、少年は村に火を付ける……なんて事はしなかった。出来なかった。それはなぜか。少年がその小屋から出ようとしたときだ……
「待って……」
そんな風にか細い声が響いた。それは勿論、幾代の声だ。すぐに少年は幾代へと水筒を差し出した。もうあんまりないが、それでもないよりはいいだろう。なんかちょっとためらってたけど、無理矢理少年は水筒を押し付けた。
そうなると、フニャッと幾代は力なく笑って上品に水筒の中身を喉に流し込んだ。
「大丈夫か? 正気か?」
「うん、大丈夫。まだちょっと頭が重い感じはしますけど……」
「……そうか」
とりあえずすぐになにか医者にかからないといけないような……そんな事はないようで少年は安心した。とりあえず幾代が無事だったということはありがたい。それで懸念が一つ消えたんだ。
いつまでも幾代が目を覚まさないとかなると、山を降りて医者の所にまでいかないといけなかった。でも……当然だけど医者にかかるような金を少年はもってない。けど幾代は無事に目を覚ましてくれた。
少年はあんまり不安そうにしたくなかった。だってそれが彼女に伝わると不安にさせるだろうとおもったからだ。でも……「大丈夫」といえるか? と自問自答したら、言葉が出てこない。
すると幾代が口を開く。
「えっと、無茶……したんですよね?」
「そんな事……」
「見たらわかります」
幾代の手が少年の手に……そして……頬に触れる。
「なっ!?」
思わず後ろに距離を取る。けど、この小屋はとても狭い、すぐに壁についた。そんなに距離はあいてない。いきなり幾代が顔に触れてきた。それが少年にはびっくりだった。けど、幾代は少年とは対象的に痛ましそうだ。そしてその指を見てる。いや、正確にはその指についた赤い液体……血だ。
「ごめんなさい。無茶させて」
「え?」
「怪我、いっぱいしてる」
少年の頬には枝がつけた切り傷があったらしい。いや、それは体中に……なんだろう。それを見て、幾代は少年が無茶をしてくれた……と理解した。それが幾代の心には突き刺さってるようだ。
「こんなの……全然……なんともない。かすり傷だ」
少年は強がった。こんなの怪我のうちにもはいらない。だって自分は男の子なんだから。そういう思い。でもそうだとしても……幾代は責任を感じてる。
「なんで……助けてくれたの?」
「えっと……」
その質問に少年は困った。なんで? 理由なんてなかった。ただ自分がやらないと行けないと少年は思ったんだ。