第四十五話part2
「いつまで……」
ポツリとそんな言葉が出る。育代は天井を見てた。真っ暗な中、暗闇に馴れた視界には天上の木目が人の顔にみえる。育代の周囲からはスースーという他の子達の声。この村では子供たちは大きな部屋で寝てた。小学生までは男女の区別もない。
はっきり言って育代はこの中で寝るのは好きじゃない。そもそもが嫌がらせをされてるし……だから一番端っこで、離れて角の部分に布団をもっていってた。一人離れてる育代。それが彼女のささやかな抵抗。
聞こえるのは虫の声と他人の寝息、そして扇風機の音。でも部屋の隅っこの育代の所まではその風は届かない。音に敏感な子の為に、寝るときは弱なのだ。なのでそんな弱弱しい風ではまったくもって育代の所までは届かなかった。
(熱い……)
思考がなくなってたら、こんなことも思わなかったんだろう。静かに何も言わずにこの中で寝てた筈だ。そもそもそれなら布団だって離さなかった。じゃあもとに戻した方がいい? けど、それは育代は嫌だった。
ゴロン……と横を向く。そして目を閉じる。それから何分経っただろう? 必死に寝よう寝ようとしてると、逆に寝れない現象が育代を襲ってた。
(トイレいこ)
そう思って布団を体から落として立ち上がった。襖を開いて、廊下に出る。等間隔である蝋燭……はもうその明かりを消してた。既に溶けてしまってるみたい。あかりは外から差しこむ月の光だけ。廊下を進むんじゃなく、そのまま外に向かう。廊下の長い暗闇ではなく、短い幅を進んで外に置いてある草履を踏んづける。 縁側と呼んだ方がいいかもしれない。
そして離れにある小屋に向かった。
「ふー」
実際離れのトイレはとても怖い。でも……今日はまだ月が輝いててマシだった。このまま部屋に戻っても眠れなさそうな気がする育代。とりあえず縁側に腰を下ろして空を見る。夜空には大量の星がある。
そんな星を見てると「ニャー」という声が聞こえた。そちらに視線を向けると、黒猫がみえた。
「あの時の?」
そうつぶやく育代。けど、あの子が本当にあの時に助けてくれた黒猫なのかは確証はなかった。だってあの黒猫には特徴はない。首輪だってないし、特徴的な斑点があるとかもない。本当に黒い……真っ黒な黒猫なのだ。
「ニャー」
「にゃーにゃー」
猫の声に合わせて、育代も声も出してみた。