第三十五話part5
完全に止まった芋虫妖怪。次に気にかけるのが何かというと、再び動き出す事なのかもしれない。だって電車は駅に止まったままではいられないのだ。時刻表に沿って電車は動いてる。なので小頭は既に動き出さないか心配してる。
「あんたすごいじゃーん!」
「わぷっ」
鬼女が小頭に抱き着いてきた。その豊満なものに埋もれる小頭。男にとってはうらやましい光景だが、小頭はとても煩わしそうにしてる。
「あつい! それに痛い!」
「ごめんごめん。でも凄いよ! 力とか何も使わずにあいつ止めちゃうんだから。いやーどっかの誰かよりもよっぽど有能ね」
なんかちらちらとしつつそんな事をいう鬼女。そのちらちらとする視線の先に誰がいるかというと、鬼男である。鬼男は別に何かいう事もない。ただ黙って腕を組んで直立不動してる。きっと鬼女にかまっても何も自分に得なんてないってわかってるだろう。それか体を休めたいのかもしれない。だってそれなりにつかれてるはずだ。なにせ一番その体を使ってたのは鬼男なんだから。その努力をないがしろにしようとしたわけじゃ小頭はない。ただ自分に何が出来るのか……と思ってとった行動がたまたまうまくいっただけ。女子中学生のひ弱な肉体。力もない体。ならばあとは頭を使うしかない。そう思っただけだ。
それに今回のは本当にただの思いつきだった。うまくいったのは偶々だ。小頭は別段頭だってそんな特別に優秀ってわけじゃないんだ。クラスでの順位は真ん中くらい。兄である野々野足軽と同じく平々凡々な人生を歩むスペックしか持ち合わせてない。
そんな風に鬼女が小頭にからみつき、鬼男に対して小言を言ったりしてる中、一人このチャンスを絶対に逃すまいとしてる人物がいる。そう、幾代である。彼女がその力を通し、呪術を使って妖怪を柱へとする。それが目的なんだから、ここからの仕事は幾代の役目だっだ。今までは幾代の若返りの力――というか、再構築できる力がちゃんと浸透する前にこの芋虫妖怪は元の場所に戻ってしまってた。だから必死に幾代はなんとかこの駅を通過するまでに急いで力を浸透させようと頑張ってたわけだ。
でももう、その必要はない。もしかしたら動き出す可能性はある。芋虫妖怪は電車の真似事をしてるから、出発時刻が来たら発射する可能性はある。でも大前提でここは廃駅だ。一応この駅には昔の時刻表がそのままある。それを小頭は確認してる。でも最悪まだ大丈夫だと小頭は思ってた。だってここは田舎だ。
都会のように数分に一本のペースで電車がせわしなく通り過ぎる……なんてことはない。そう、この駅の時刻表では三十分は感覚が空いてた。それだけあれば十分だろう。