267P
「何笑ってるのよ? あんたも見たでしょ? 今の……あれ」
「だからだよ!」
疑問を口にした野々野小頭に向かってすごい勢いで肩を掴んでぐわんぐわんとしてくる草陰草案。興奮してるからかなんなのか、野々野小頭が前に後ろに揺られることになった。
「やめっ――ちょっ――やめろ!」
ばちこん――と野々野小頭は草陰草案をチョップして止めさせる。けどそれだけじゃ収まらない興奮が彼女を支配してるようだ。
「あんな不気味なものみてそんな……」
「ああーしまった! 写真撮って無いよ!! 証拠残さないと!」
そう言って再びビルに入っていこうとする草陰草案を大人たちが止める。
「やめるんだ」
「そうだ。危険だぞ」
「ああ、自分たちだって昨日散々……」
「自分の身を大切にする事もこういう事を好きである者には大切ですよ」
それぞれ三者三様に草陰草案を止めようとしてくる。けどその程度じゃ、草陰草案の好奇心は止まらない。寧ろ……だ。彼女はこの好奇心を止めようとしてくる、大人たちにちょっと幻滅してた。なぜなら、彼女は彼らを同士だと思ってたからだ。同士ならわかってくれる……そんな思いが彼女にはあった。
「残念です。どうして止めるんですか? 皆さんも分かるはずですよね!! この気持ち!! ずっと追い求めてたんです!! それが今、目の前にあるんですよ!!」
草陰草案は不思議と不可思議な存在がそこにいる――ということで興奮してる。でもよく見ると、彼女の体は震えてた。それは武者震いなのかもしれないが、でも最初の反応は皆と同じ様に悲鳴を上げて逃げ出した。それが普通の反応なのは間違いない。けど本当に異常なほどに不思議を追い求めてるのなら、あの瞬間、歓喜してしまうものではないだろうか? そんなことはなく草陰草案は皆と同じ様に逃げ出した。そして今も震えてる。
ほんとうは怖いのかもしれない。けど今までの自分を肯定する為には、こんな状況なら……と無理してるのかも。
「ちょっともういいでしょ。その人達の言うとおりだよ。危ないよ」
「でもこのままじゃ私達の言葉だけだよ。そんなのじゃ、信ぴょう性ない。せめて……せめて写真だけでも……」
そう言って彼女は持ってるカメラを握りしめる。それはスマホのカメラではなく、もっと上等なミラーレスカメラだった。
「絶対に……撮る」
そんな事を決意を込めて言う草陰草案。そんな彼女をみて、息をはく野々野小頭。それは草陰草案の事をよく知ってるからこそのため息だった。
「すみません。この子、こうなったら聞かないから。絶対に危なくなったらすぐに逃げます。だから……」
「野々野ちゃん……好き!」
野々野小頭の言葉に抱きついてくる草陰草案。そんな二人をみて、難しい顔をする大人たち。いや、一人だけ……ミカン氏だけ『てぇてぇ』と拝んでた。




