表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

第一話 スライム令嬢は虐待から逃げる

スライム令嬢の話を書きたくなりました。

 伯爵令嬢の私は地下室に閉じ込められていた。

 食事も運ばれてこないので餓死しそうである。

 なぜ、こんな事になったのか……。


 私は騎士団の副団長をしているヘンドリック伯爵の娘として生まれた。

 名前はサーラ・ミュゼ・ラウンドハートである。

 しかし母親が死んで後妻のイザベルがヘンドリックと結婚してからは不遇だった。

 イザベルにリリアンという私とは腹違いの娘が生まれると、虐待されるようになっていったのである。


 継母が義理の娘を虐めるというよくある話である。

 私は今年で十六歳の成人になったが誰も祝ってくれなかった。

 使用人たちも私がいないものとして扱っているのである。

 ネズミや虫の湧く、汚い地下室に押し込められてかろうじて生きていたのであるが、今回はもう駄目らしい。

 夜中に厨房に忍び込んで残り物の料理を食べていたのが、継母にバレたのである。

 地下室に閉じ込められて外から鍵をかけられた。


 父親のヘンドリックは魔族との戦争で出征していると使用人が話していた。

 父親が居れば食事だけは与えてくれたかもしれないが、継母は私のことを心底嫌っているので、このまま餓死させるつもりだろう。


「もう駄目かも……お腹がすいたなぁ……」

 私は暗い地下室の中でしゃがみ込んで呟いた。

 擦り切れた汚れたワンピース姿である。

 服など買い与えられたことはなかった。

 使用人がゴミ箱に捨てた古い服を拝借して、手直しして着ているのである。


 まともに食事を取ったことなどないので、ガリガリに痩せている。

 なんとかしないと……。

 私にできることは?

「ステータスオープン」

 私が呪文を唱えると目の前に半透明のスクリーンが広がった。

 ステータスが表示されている。


・名前 サーラ・ミュゼ・ラウンドハート

・年齢 16歳

・ジョブ スライム使い

・体力度     8/15

・知力度    20/25

・器用度    18/22

・敏捷度    10/17

・魅力度     3/25

・幸運度    10/15


 私のステータスを見ると知力度と魅力度が比較的高い。

 でも今は汚い格好をしているので、魅力度が低くなっている。

 空腹なので体力度も低くなっていた。

 体力度が低くなると、知力度と器用度と敏捷度が下がる。


 そして、私のジョブは“スライム使い”だ。

 ラウンドハート家は優秀な騎士を輩出する家系である。

 テイマー系の“スライム使い”は異端だった。

 私が虐待されているのはこれも関係している。


 地下水がにじみ出て床を濡らしている。

 いつもよりも水たまりが大きかった。

 これなら外は雨なのかもしれない。

 私はブルースライムを呼び出した。

 水たまりからプルルンとしたゼリーのようなスライムが現れる。

 私はそれを手に取った。

 ひんやりとして、美味しそうな果物の匂いがしている。


 私がガブッと噛みついてもぐもぐと咀嚼した。

 ゼリーとか水ようかんを食べている気分である。

 ほのかに果物の風味がして美味しかった。

 スライム使いの私は、スライムを食料にすることができるのである。

「これならいくらでも食べられるわね」


 私はお腹がいっぱいになるまでブルースライムを呼び出して食べ続けた。

 すると私の身体に変化が訪れた。

 身体が青白くなってきて、透明化してくる。

 着ていた服は吸収されて裸になった。

 スライム化である。


 スライム使いはスライムを呼び出して食べることができるが、副作用がないわけではない。

 スライムを大量に食べると、身体がスライムになってしまうのである。


「でも、スライムの身体なら抜け出せるわ」

 地下室の出入り口は頑丈な鉄製の扉で閉じられているが、変幻自在なスライムボディなら隙間から抜け出せそうだった。

 完全にスライム化した身体をフニョフニョと動かして扉に向かっていく。

 扉と壁の隙間に潜り込んだら、スルリと抜けられた。


 地下の廊下には誰もいない。

 そのまま誰にも邪魔されずに伯爵邸を抜け出すことに成功した。

 外は夕方で強い雨が降っていた。

 実母が生きていた頃の記憶を頼りに街の中央広場に向かうことにした。


 土砂降りの大雨なので、人通りは少なかった。

 身体を無色透明にして物陰を進んでいったら、誰にも見つからずに噴水のある中央広場にたどり着いた。

「人化の術」

 私が術を起動する呪文を唱えると、スライムの身体が変化し始めた。

 みるみるうちに人間の形になり、肌も人間らしい質感になった。

 吸収していた服を再構成して服を着た人間の美少女の姿になる。


 美少女と言っても服はみすぼらしい使用人のワンピースのままだが、肌艶が良くなって、胸も腰もムッチリと盛っている。

 髪色はアッシュブロンドで瞳の色は澄んだ青色だった。

 幼い頃の思い出にある実母の姿にうり二つだった。

 スライムボディから人化したときは、ある程度、理想の姿に調整できるのである。


「誰か来ないかしら?」

 美少女の姿で雨に打たれながら噴水前にいて、救いの手を差し伸べてくれた人についていくつもりだった。

 もとのラウンドハート伯爵家には戻れないのだから仕方ない。

 ついていった人間が悪いやつだったら、スライム化して逃げ出せばいいのだ。

 地下室で餓死しそうになっていた元の状態よりも悪くはならないはずだ。


 しばらく雨に打たれていると、脳裏に実母のことが思い浮かんできた。

「サーラ、どんなに辛いことがあっても挫けないでね。悪いことの後には同じだけいいことがあるのよ……」

 亡き母の言葉が思い起こされた。

 優しい笑顔で包み込んでくれた。

 母の言葉を励みにして虐待されても耐えてきたのだ。


「これから良いことがある筈だわ」

 私は手の平を上に広げて雨粒を受け止めてみた。

 スライムの身体には水が相性がいい。

 人化しても水を吸収することが出来た。


「ここで何をやっているんだ?」

 思い出にふけっていると、いつの間にか目の前にレインコートを頭からかぶった男性が立っていた。

 黒髪と黒い瞳で褐色の肌をしている。

 二十代前半のイケメンだった。

 虐待で精神をすり減らしていたとは言え、私もイケメンは好きである。

(ラッキーかも……)


 なるべく庇護欲をそそるような可憐な声で言った。

「親に捨てられてしまって行くところがないんです……」

 イケメンはしばらく考えていたが、私の顔を覗き込むと、ハッと息を呑んで手をつかんだ。

「俺の家で保護してやる。ついて来い」


 私は頷くとイケメンの馬車に乗せられた。

「俺はロバートだ。君の名前は?」

「私はサーラです」

 馬車の中が水浸しになったが、ロバートは気にしていない素振りだった。

「屋敷に戻ったら風呂に入れて着替えも用意させる。食事もまだだろう。腹いっぱい食べるといい」

 ロバートは優しい目を向けてきた。

 私は運がいいようだ。

 この人は弱者を助けるようないい人みたい。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマーク登録、広告下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ