第94話/永遠の螺旋
谷口美沙.side
眠たい目を擦りながら、大学に行くため階段を降りる。洗面所に向かい、顔を洗った後タオルで顔を拭いているとお母さんに大きな声で名前を呼ばれ、リビングに行くとお母さんが新聞を広げ、私に芸能紙面を見せてくる。
まだ起きたばかりで顔を洗っても頭が朦朧としていた私はみのりの写真を見つけ驚く。
みのりが新聞に載っており…それも私の好きな漫画の実写化するドラマに出演する。
それも…大好きなキャラの鮎川早月役で。
やっと、普段漫画本を読まないみのりが「彼女はちょっと変わっている」を読んでいた理由が分かった。
凄いことだし、みのりがドラマに出る事が嬉しいけど心に虚しさが訪れる。
最近のみのりはメジャーデビューに向けて忙しそうで電話するのも控えていた。
まさか、私がみのりから離れている間にドラマに出演するなんて嬉しいけど…寂しい。
それに…ヒロイン役は松本梨乃ちゃんだし、みのりの隣を取られた気分になった。
「みのりちゃん、凄いわねー」
「うん。そうだね」
お母さんが人気アイドルの高橋賢人と人気若手女優の森川愛が出るよ!と騒いでいるけど、私はこんな風に騒げないし喜べない。
私は最低な友達でダメな子みたいだ。みのりの躍進を素直に喜べないでいる。
ドラマが放送する時間帯は遅いけど、テレビ局的には期待値が高いのだろう。主役を演じるアイドルの男の子は人気があるし。
テレビをつけると鮎川早月を演じるみのりが鮎川早月になりテレビの中で話していた。
役柄のために髪を切ったのかな?よく似合ってるよ。めちゃくちゃ似合ってる。
でも、テレビ画面の中には制服を着た私の知らないみのりがいた。
高校時代は彼氏といる時以外、ずっとみのりといた。みのりに彼氏が出来た時は邪魔しちゃいけないからと距離を少しだけとった。
みのりを失わないようにするために…みのりを拘束したくなかったから。
きっと、みのりが更に売れたら私と遊ぶ時間は無くなり、私はどうなるのかな?
みのりのいない人生なんて考えられない。いつも、みのりが優しすぎるから彼氏とみのりを比べ、彼氏と上手くいかなくなって…
今も私に彼氏がいないのはみのりのせいだ。最近、恋愛に疲れている自分がいる。
絶対に一番になれないのに一番を求められて、徐々に心が冷めて身勝手な浮気をされて、別れるパターンが多かった。
体はあげれても心はあげられない。
なのに、体ばかり求められると嫌だと泣く。
私は我儘で自分勝手な子だ。
松本梨乃ちゃん、可愛いな。森川愛ちゃん、綺麗な子だな。みのりも可愛いよ…
私の知らないみのりがいるみたいで、虚しさで孤独に押しつぶされそうだ。
暗闇の中にいた私は携帯の着信音のメロディーが聞こえ、急いで電話に出る。
耳元にみのりの声が聞こえ、一瞬で私の心が晴れやかになり温かくなった。
「あのね、今日発表されたんだけど…今度ドラマに出るんだ。美沙が好きな漫画が原作のドラマで鮎川早月役をやることになったの」
「さっき、テレビ見たよ」
「今日まで言えなくてごめんね…事務所から制作発表されるまで誰にも言っちゃダメだって言われてて」
みのりとこんな会話をしたのは初めてで、みのりが芸能人なんだと久しぶりに認識した。そうだよね、、みのりは芸能人なんだ。
「美沙、今日空いてる?本当は直接言いたかったけどきっとテレビなどで知ると思ったから電話したんだ。でも、ちゃんと美沙には会って言いたいから」
「いいの?ドラマの撮影とか…」
「まだ、撮影は始まってないよ。美沙、今日のバイトは何時に終わる?」
「今日は休み」
「そうなの?今日は仕事が夕方に終わるから、その後に美沙の家に行くね」
「うん。待ってる」
「ずっとね、美沙に言いたくて仕方なかった。早く美沙に報告したかったよ」
「へへ、嬉しい」
私のみのりへの愛は泥沼のように深い。過剰な愛かもしれないし異質な愛かもしれない。
そして、果てしなく重くみのりに固執している。でも、そんな私にさせたのはみのりだ。
私の全てを受け止め、受け入れ、みのり無しでは生きれなくなってしまった。
みのり中毒者で、みのり依存者で、みのりは私の光。みのりがいないと死んでしまうのだ。




