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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第88話/抜けられない中毒性

松本梨乃.side


台本の読み合わせが終わり、キャストは衣装合わせのため移動をする。私は椅子から立ち上がり、みのりの元へと向かうと久保田凛役を演じる森川さんと目が合った。

だけど、人見知りの私は思わず目を逸らした。オーラが凄すぎて気後れしてしまった。


それに、今日はただでさえ初めて尽くしでかなり疲れている。人前が苦手な私はアイドルとは違う世界に慣れず、みのりがいなかったら逃げ出していたかもしれない。

本気でみのりがいてくれて良かった。みのりがいたから渋々この場で頑張っていられる。


それに、みのりの真剣な表情を近くで見れて幸せだ。唯一の私の楽しみは演技をするみのりであり、みのりだけを見ていたい。

こんな風に演技をするんだとワクワクし、鮎川早月がどんどん好きになる。小春はきっと私と同じで密かに想いを寄せている。


だけど、言葉にするのが難しく動けなくてもどかしい関係に陥っているはずだ。

いつか小春と早月は…と考えているとみのりが誰かに頭を下げている。みのりの視線の先を見るとさっき目が合った森川さんで…


森川さんは私達と同じ19歳。人見知りをしないみのりは森川さんに興味津々だろう。

でも、私は誰とも仲良くなりたくない。みのりだけでいいし、みのりを取られたくない。

森川さんとみのりに仲良くなってほしくないよ。これ以上、邪魔者はいらない。


「梨乃?」


「えっ?」


「どうしたの…?」


みのりが小声で私を心配する。きっと私がみのりの腕を掴み、引っ張ったからだ。

何でもないよ…と言ったけど、2人の距離が縮まる想像をしてしまった私の顔は引き攣っている。ヒロインの小春と一緒だ…引っ込み思案で、好きな物に対する執着心が強い。


そんな私をみのりは安心させてくれる。早月のように寄り添い私を笑顔にしてくれる。

みのりが「終わったら、甘い物食べに行こう」と嬉しいことを言ってくれた。私にとってはこれはデートであり、暗い気持ちから一気に晴れやかな気持ちになる。


私の表情の変化にみのりはクスクスと笑い「可愛い」って言ってくれた。大好きな人からの言葉は私の全てを変える。

もっと褒めてもらいたいから、もっと綺麗になりたいと自己力をアップさせてくれる魔法の言葉で、私の生きがい。





田中/奏多みどり.side


パソコンと必死に対峙しながら新しいネームを考える。これが終わらないとみのりちゃんのライブに行けない。

アイドルの推しごとのために、お金を稼ぐための仕事を疎かにしてはいけない。


これは私が決めたことである。みのりちゃんを声援とお金で応援したいからだ。

でも、さっきから笑顔のままずっと口角が上がっている。何度も携帯でみのりちゃんの写真を見て…みのりちゃんが早月と呟く。


編集者の人に鮎川早月役がみのりちゃんに決まったと電話をもらった時、私は初めて足に力が入らなくなり座り込んだ。

うずくまるような格好で、良かった…と嗚咽混じりに声に出し、編集者の人の慌てた声が聞こえたけど無視をした。


漫画家になってこれほど良かったと思えることはない。漫画大賞を取った時より、初めて連載をもてたことより今の方が大きな喜びに満ち溢れている。


みのりちゃんが鮎川早月役を演じる。誰かこのニヤニヤを止めてほしい。

自分の気持ちの悪い顔つきにハッとしては仕事をし、また携帯でみのりちゃんを見ての繰り返しだ。早くネームを進めなきゃいけないのに…締め切りは待ってくれない。



みのりちゃんの歌声が1日中、私の耳を幸せにしてくれる。早く、デビュー曲を聴きたいなと思いつつ、CLOVERの代表曲「Love and Lies」のサビフレーズを何度も口ずさむ。


〈本気にならない恋が好き〉


この歌詞の意味は恋愛は先に惚れた方が負けだと思っている。恋は先に好きになると相手を追いかけるしかなくなる。

でも、追いかける恋は自分を動かす原動力でもある。アイドルとファンの関係も一緒だ。


アイドルがいるから頑張れる。頑張って生きようと思える。明日が楽しみになる。


ある意味、麻薬のようなものでハマればハマるほど抜けきれない。沼にハマるような中毒者になり人生を捧げる。

でも、時間を忘れるぐらい楽しくて年を取ったことに気づかないぐらい夢中になれるもので、あっという間に1年間が終わる。


アイドルはファンに本気にならない恋をしようと誘惑する。アイドルはファンに絶対に本気にならない。これは【仕事】だから。

ファンは先に惚れたが負けの如く、その誘惑に乗り、虜になって手のひらで転がされる。でも、それでいい。だって、楽しいから。



一度でもアイドルにハマったことがある人は気持ち分かるよね?アイドルは底なしの沼に誘い込む美しい蝶々だ。

華やかな格好でフェロモンを撒き、見たものを虜にする。中毒性のあるフェロモンは一度嗅いだら離れられない。

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