第87話/溢れ出すEuphoria
吉田夏樹.side
今日はみのりと梨乃を連れ、ドラマの顔合わせに向かう。きっと、初めてのことでみのりと梨乃は緊張しているはずだからマネージャーの私が2人を支えないといけないのに私も緊張し口の中が乾きカサカサだ。
私の緊張はメンバーに対しての熱い思いがあるせいで気が張っているのかもしれない。
もっと大人としてリラックスして、余裕を持って仕事をしたいのについキョロキョロと周りを見て息をのみまた緊張を強くする。
主役を演じる高橋賢人君は間近で見るとキラキラと輝いており、流石人気アイドルだ。
同じ業界で働く身分だけど、テレビでしか普段見ない人達に会うのはマネージャーをやっている私でも一般人化してしまう。
昨日、クリーニング屋さんから戻ってきた一張羅のスーツを着てきてよかった。
私もみのり達も新人だ。私はマネージャーとして身なりをきちんとし、色んな場所でみのりと梨乃を売り込まないといけない。
いつでも名刺を出せるようにスーツの内ポケットを触る。名刺があるのを確認し、みのりと梨乃を後ろから見守った。
今から自己紹介をし、顔合わせが始まる。お願いだから足の震えが止まってほしい。
何度もドラマを経験している主役の高橋君は堂々した雰囲気で自己紹介をする。
私の事務所にもこんな男の子がいればとついマネージャー目線で見てしまう。梨乃やみのりと女優として活躍しそうな人材がやっと出てきたけど俳優部門はまだ弱い。
次にヒロインを演じる梨乃が立ち上がり、下を向くことなくちゃんと自己紹介をした。
梨乃はヒロイン役を勝ち取った…勝ち取ったって言葉が私の心を熱くさせる。
勝手に口角が上がり、笑みが抑えられない。梨乃がヒロインをやる…最高だ。
椅子に座った梨乃の背中を見ながら私は勝ち誇る。梨乃はきっと女優として大成しますよとここで宣伝したい気持ちが湧き上がった。
梨乃はまだ19歳。女優としてはもっと早くから演技の経験や活躍の場を広げたいけど、十分早い年齢でもある。
私は背筋を伸ばし気合を入れる。周りをチェックし、後で挨拶回りをするため挨拶の順番の番号を頭の中で付けた。
これもマネージャーの仕事だ。興味を持ってもらっているうちに売り込みをしなくては。
一度息を吐き、みのりの順番が回ってくるのをドキドキしながら待つ。今、自己紹介しているのは若手女優の森川愛ちゃん。
この子も経験から来る堂々とした自己紹介と自信に満ちた顔をしている。流石だ…10代で既に数々の人気作品に出ているだけある。
次はみのりの番。漫画を何度も熟読している私の目にはみのりが漫画本の中から飛び出してきた鮎川早月に見えている。
早月がみのりそのもので、田中さんのみのり愛に脱帽する。人気漫画家なのに好きなアイドルを漫画のキャラにしてしまった。
みのりの背中に頑張れと応援する。声に緊張が感じられるけどCLOVERのリーダーとして沢山話してきた経験が生きてる。
みんなの自己紹介が終わったら台本の読み合わせが始まる。緩やかだった空気が硬い空気に変わり、私の背筋が一気に伸びる。
さっき、台本をパラパラと捲った時に役名の所に松本梨乃・藍田みのりの名前を見つけテンションが上がり興奮が凄かった。
膝の上に置いている台本の上で手をギュッと丸め、この初めての空間を真剣に見つめる。
私がアイドルを諦めた後、もしマネージャーにならなかったら私はずっとつまらない人生を送っていた。
心にしこりを残し、仕事の後に毎日ダラダラとテレビを見ながらボーっと過ごす日々。
私は仕事が楽しくて仕方ない。お母さんに恋人とかいないの?とか言われるけど今は仕事に集中したいし恋愛になんて興味がない。
同い年の友達は結婚したり子供がいる人もいるけど、私の今の楽しみはCLOVERのメンバーの活躍と成長と輝く未来だ。
頼もしくなっていく2人の成長した背中を見つめ、これからメンバーがどうやったらもっと更に活躍できるか模索する。
私はマネージャーとしてみんなのサポートをし、みんなを守るためなら何でもする。
みんなは私の生きがいだから。
 




