第67話/Turning Up
松本梨乃.side
最悪だ。頑張ってみのりとの距離を近づかせようと頑張っていたのに、全てよっちゃんが台無しにした。
ドラマなんてどうでもいい!私は仕方なく受け、ドラマになんて出るつもりはなかった。
なのに、勝手に話が進み…
私がドラマに出ることが決定した。
絶対に落ちると思っていたのになんでなの?オーディションにはすでに売れている子や可愛くて華がある子が沢山いた。
演技経験もない私が選ばれる確率なんて0%だったはずなのにおかしい。
間違いだと思いたいのに、よっちゃんが嬉しそうに話すから事実だと押し付けられる。
早く報告なんて終わってほしい。会議室の空気が重いし、この状況になるのが分かっていたから嫌で帰りたかった。
私にとってアイドル以外の仕事は無だ。興味がないし、やる気もない。なのに勝手に話が進み、私の逃げ場を無くし雁字搦めにする。
予測できた反応がみんなから返ってきて、なんで私がこんな仕打ちを受けないといけないのと悲観する。私は被害者なのに…
だけど、きっとみんなはそうは思わない。由香里は不満げだし、みのりは下を向いている。
唯一、美香だけが変わらず興味津々によっちゃんに質問をし話を進める。
それに、何?初めて知った情報があり…原作者の推薦なんて聞いてない!奏多みどりって誰?何で私を知ってるの?
だって、おかしいよ。まだメジャーデビューもしていないし、雑誌に載ったのも微々たるものだし、テレビなんて皆無だ。
私を知っているのはCLOVERのファンか私のファン以外あり得ない。
「えっと、それでね。今度、クラスメイト役のオーディションがあるんだけど3人に受けてもらうことになってるから」
「えっ?私達も受けれるの⁉︎」
「うん。みんなも頑張って勝ち取ろう」
私はずっと俯いていた顔を上げる。美香は嬉しそうにチャンス!と喜んでいる。でも、由香里とみのりは黙ったままだ。
「みんな!これはチャンスだよ!やっと6月にメジャーデビューするの。4月から始まるドラマのヒロインを梨乃がやることで必ずCLOVERは注目をされる。私達はまたとないチャンスを勝ち取ったんだよ。由香里、みのり!絶対にクラスメイトの役を勝ち取るぐらいの気持ちでいないでどうするの!梨乃は一歩前に進んだんだよ!みんなも進もうよ!」
よっちゃんが必死に鼓舞をする。やっと2人も顔を上げ、決意をした顔つきになった。
良かった。みのりに裏切り者だと思われたら私はドラマなんて蹴って、ひたすらみのりに謝るつもりでいた。
「ねぇ、よっちゃん。奏多みどり先生って誰なの?りっちゃんを推薦したぐらいだから私達のことを知ってる人だよね?みどりだから女の人?」
「ごめん、それは私も分からない。奏多先生は性別を発表していないし顔出しもしていないから何も分からないんだ。でも…私の予想ではCLOVERのライブに来ている人だと思う。じゃないと、デビューもしてないCLOVERを知らないと思うから」
美香も私と同じ疑問を感じていたみたいだ。よっちゃんも私と同じことを考えており、CLOVERのファンではないかと思っている。
藍田みのり.side
梨乃のドラマの話を聞き、悔しい気持ちに押しつぶされそうになったけど、よっちゃんの言葉で私は負けたくない気持ちを強くさせる。
梨乃は凄い人に見つかり、チャンスを掴んだ。だったら、私もチャンスを掴んでみせる。地下にいても見つけてくれた人がいた。
海の底に沈んでいた私は必死に泳ぎ、水面に顔を出す。今がCLOVERのチャンス。泥舟でもいい、必死に掴んで必ず上に這い上がる。
まずは梨乃がヒロインをやるドラマのオーディションだ。梨乃以外、みんな女優志望でもあるからライバルになるけど私は負けない。
今も本音では女優志望でない梨乃がドラマに出るのがめちゃくちゃ悔しい。演技に興味がないのに大役を掴んだ。
【奏多みどり】
この人は誰なんだろう?
やっぱり、梨乃のファンだろうか?
《事実は小説より奇なり》
有名な漫画家がCLOVERを知っているなんて凄いことだ。無縁だと思っていた人との繋がりに驚くし、大きなチャンスが舞い降りた。
チャンスは掴まないと何も始まらない。梨乃はチャンスを掴み、勝ち取った。
これはちゃんと梨乃の実力があってこそで、頑張った結果である。だから、ここで嫉妬をしている暇なんてないと自分に鼓舞する。
私は梨乃に負けたくない。同い年の梨乃は私の最大のライバルなんだ。




