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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第5話/カップルの相乗効果

梨乃に抱きついたまま目を瞑る。温かい人肌が気持ちよく、梨乃の体は極上のマットみたいに柔らかい。

もうこのまま寝たくなってきた。考えるのに疲れて瞼が今にも閉じそうだ。


「みのり、そろそろ離れて」


「このまま寝たいー」


「重いの!早く離れてー」


梨乃が暴れ馬のように動くから仕方なく離れる。でも、離れた途端ベッドの上でうつ伏せになった梨乃の背中に乗り抱きついた。

1人は寂しい。これからのことを考えると孤独で泣きそうだった。


そんな私の心情を汲み取ってくれたのか、梨乃はため息を吐きつつも何も言わない。

私は梨乃の背中に引っ付き、やっと心が落ちついてきた。心が弱っている時、肌の温もりを求めてしまう人が多いけど本当だね。


目を閉じ、しばらく梨乃の背中の温かさを感じていると、この体勢が亀の親子みたいで梨乃と一緒に写真を撮ったら面白いなとふと思った。それにSNSのネタになる。


「梨乃、写真撮ろう」


「この体勢で?」


「うん。亀の親子みたいでしょ」


私はSNSが苦手だ。アイドルにとってファンとの大事なコミュニケーションアイテムだけど、毎日書くことなんてないし自撮りだけでもいいよってファンが言ってくれるけど、それさえも面倒いって気持ちがある。


そんな気持ちを持ちつつ、とりあえず写真だけでもとSNSに載せている。

私はアイドルには向いていないのかもしれない。アイドルとしてアピール出来るアイテムなどを使いこなせていない。


「ほら、梨乃も笑顔を作って」


「重くて笑顔なんて作れない」


「私はそこまで重くないぞー」


これでも体重の自己管理は徹底している。毎日体重計に乗り、1キロ増えていたら運動したりご飯の量を調節する。

甘いお菓子も控えているし、我慢づくめの毎日だ。私なりに頑張っているんだよ。


「梨乃、笑顔〜」


「分かったよー」


梨乃の頭に私の顎を乗せ、頬を膨らませ面白い顔をする。笑顔が苦手だからつい変顔ばかりしてしまう私の悪い癖だ。

でも、面白い写真が撮れた。アプリで加工し可愛くデコると亀っぽく見えるし、今の時間を楽しんでいて私も梨乃も楽しそうだ。


2人で笑いながら、写真の感想を言い合い、亀の親子と書き、私は早速SNSに載せた。

こんな時間だけど、いいねが来るといいなと思いながら携帯の画面を見つめる。


「おっ、亀の親子が意外に人気だ」


「見せてー。あっ、本当だ。さっき投稿したのにいいねが30も付いたね」


「ねっ。毎回これぐらい付いて欲しいよ」


「あっ、みのり見て」


「何?」


「コメントに2人のコンビが大好きです!って来てるよ。よくいるよね、このコンビが好き〜って言ってくる人」


確かに梨乃と一緒に写った写真を載せた時、いつも反応が良い。グループ結成時、一番最初に仲良くなったのは同い年の梨乃で、いつの間にか年上組・年下組で一緒にいることが多く写真を撮りやすかった。


今までは何も考えなしに写真を撮りSNSに載せていたけど使えるのかな?アイドルは仲の良いメンバー同士の愛称があったりする。

ファンはメンバー同士の仲の良い姿を見るのが好きだ。もしかしたらファンは私と梨乃のコンビを求めているのかもしれない。


「梨乃、もう1枚写真を撮ろう」


「また?」


「うん、今度は梨乃が写真を載せて」


次はどんな風な写真を撮るか考える。急に至近距離で写真を撮るのはダメだ。

あくまで自然体で梨乃と撮らないといけないし、意味をつけてはいけない。


「今度は梨乃が上に来て」


「また亀の親子するの?」


「うん、逆バージョン」


私と梨乃のファンにこの写真の反応が良かったら相乗効果を得られる。先ずは互いのファンが喜ぶものを探らないといけない。

私は今までガムシャラに歌やダンスを頑張ってきた。でも、それだけでは努力が見てもらえないって嫌になるほど知った。


何かしら注目を集めてから努力を知ってもらう。まずはファンの視線を集めないと私自身を見てもらえない。

美香はあざとい可愛さが売りで、由香里は色っぽさが売りで、2人はいつかグラビアをやりたいと何度も社長に言っている。


私と梨乃は歌とダンスを必死に頑張り、いつも端同士で歌って踊っていた。

私達には目立つ売りが少ない。本当は歌とダンスで認められたいけど、先ずは注目されないとちゃんと見てもらえない。


「みのり、亀の親子やっぱり人気あるね」


「どれくらいいいね付いた?」


「40超えてる」


「あっ、私の方も50超えた」


いける。やっと私は活路を見出せた。自分磨きも大事だけど、ファン心理を掴むのも大事だ。私と梨乃は自分しか見ていなかった。

これが自己プロデュース。美香も由香里も自分の売りを分かっていた。


何を強調させ、どう自己アピールするか。だけど、やり過ぎたらすぐに限界は来る。丁度いいラインを見極め売り出していく。


【カップル(コンビ)売り】


アイドル業界ではよく聞く言葉だ。まさか、自分がやるとは思わなかったけどそんなの気にしていられない。

私は燻ったまま終わりたくない。底辺で終わるなんて絶対に嫌だ!!!

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