第58話/私の足枷と呪縛
今日は久々のオフだ。バイトもなく、ライブもなく、そんな日は梨乃と振り付けを考えていたけど梨乃に用事があり事務所に来れないと聞き、私は家でずっと寝ていた。
昨日は夜遅くまで勉強をしており、久々に脳を激しく働かし疲れていた。
お昼手前頃、やっと起きようとベッドから体を起こす。携帯を見ると美沙から〈もうすぐ着くよー〉とLINEが来ていた。
私は慌ててベッドから飛び降りる。美沙が家に来ることを忘れていた。
美沙は大学が始まったのに、平気で私が休みだと知ると大学を休み、単位は取れているから大丈夫と言い、私と会おうとする。
私は洗面所で歯を磨きながら携帯を触る。いつもだったら月末近くになるとよっちゃんから2月のスケジュールが送られて来るはずなのにまだ来ていない。
洋服に着替え終わった私は髪を整え、朝ご飯を食べる時間はないからせめて飲み物をと温かいコーヒーを淹れる。
まだ、眠気が完璧にはなくなっておらず、少しだけ眠たさが残っている。
砂糖の入ったコーヒーを飲み、美沙が来るまでソファーに横たわる。せっかくカフェインを体に取り入れたけど、眠気がなかなか取れない。でも、タイミングよくインターホンが鳴り私はフラフラしながら立ち上がった。
「みのりー!おはよー」
「おはよ…」
玄関のドアを開けると元気な美沙がいて、圧倒される。私と対照的な美沙は今も眠気と戦っている私に気づき「眠そうだね。昨日、寝たの遅かったの?」と聞いてきた。
私は素直に「うん」と返事をし目を擦る。コーヒーを飲み、顔も洗ったけど、頑固な睡魔が襲ってくる。
大学受験の勉強のため寝不足が続いており、それに私は一度勉強をしだすと時間を忘れ集中する癖がある。
「じゃ、寝てていいよ」
「大丈夫…」
「眠そうじゃん。ほら、部屋に行こう」
美沙に手を引っ張られ、私の部屋に連れていかれる。美沙は私を本気で寝かそうとしているみたいで、私をベッドに横たわらせる。
「こら、寝ちゃうって」
「いいよ」
「でも、美沙が」
「私も一緒に寝るもん」
美沙が目を瞑ったらすぐに寝そうな私に掛け布団をかけ、本気で私を寝かそうとする。仕方なく目を瞑ると、美沙の香りと温かさにすぐに夢の世界へ旅立った。
懐かしいな。目の前には制服を着た高校生の美沙がいる。今より少しだけ幼くて可愛い。
でも、何でさらに過去に行こうとするの?これ以上過去に戻ってほしくないのに私の前から美沙が消える。慌てて手を伸ばしたけど、美沙の腕を掴めず私の手は宙を切った。
楽しい思い出より嫌な思い出は記憶に残るという。私も同じパターンだ。
何度も消しても嫌な思い出は蘇る。私が人間嫌いになった理由、私が美沙に依存した理由、私が恋がくだらないと決めつけた理由。
の元となった嫌な記憶。
高校入学後、すぐに友達が出来た。でも、女子校という窮屈な空間に私は幻滅する。私のクラスは窮屈で閉鎖的な空間で歪んでいた。
みんな、より良い学校に入るため勉強をし色んなものを我慢してきた子達だ。
だからこそ、我慢してきたものを解放し16歳という人生を楽しもうとしていた。
◆恋をしたい
◆恋愛をしてみたい
◆肌を感じたい
◆疑似恋愛でいいから…
私はよく友達に引っ付かれる存在だった。でも、私も昔から人に触れる(引っ付く)事が多いタイプで全く気にしてなかった。
だから、抱きつかれても何も思わず…当たり前になって普通だと受け入れていた。
でも、受け入れてしまったことで過剰になっていき、私はいつのまにか彼氏役になった。
私にベタベタ引っ付き、甘い声で「みのり」と呼び、私を疑似彼氏の代わりにする。
最初は流石に戸惑ったよ。だけど、やめてとも言えない空気があり諦めるしかなかった。
ある日、1人の友達から突然キスをされた。このキスは友達にとってお遊びのキス。
でも、私にとってはファーストキスで…「へへ」と笑う友達の声が匂いがムカついた。
だって、おかしいよね?
なぜ、笑えるの…ってなるよね?
人のファーストキスを奪っておきながら、なぜ…みんな笑っているの?って。
「いいな〜」
「えー、私もしたい」
はぁ?ふざけるな!と言いたかった。私の気持ちはどうでもいいの?ってなるし、みんなのニヤニヤとした顔に腹が立って。
私はアイドルになりたくて恋愛をしたことがなかった…。過去の恋愛も不利になるし、そもそもあんまり恋愛に興味もなかった。
女の子の甘い香り。これほど、不快な匂いと認識したの初めてだった。
でも、態度に出すことは出来ない。ここで本気で嫌がったら私だけ浮くから。
冗談なのに〜と言われたら私は何も言えなくなるし、空気が読めない子になる。
だから…逃げれなくなってしまった。この子だけだったら嫌な思い出にならなかったよ。
あの子がしたなら私もいいよね?って子が出てきて…馬鹿が伝染した。
この時から私は受身体質になった。これが平和に過ごせる生きた方で面倒なことを考えずに済む対応。心の殺し方だ。
心を殺さないと私は私を保てなかったから。
 




