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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第3話/10's→20's

今日もアイドルの仕事がなく、私は朝からバイトに明け暮れる。同い年で、同じグループのメンバーの松本梨乃と一緒に黙々と働き、アイドルで稼げないお金の分を稼ぐ。


夕方からは梨乃と一緒にダンスの練習することになっており、今日は朝から夜までみっちり動くから大変だ。

それでも私と梨乃は頑張らないといけない。三番手、四番手から抜け出す為に。



そんな下位層でもがく私達はCLOVERの振り付けを担当しており、矛盾と戦っている。

最初はグループの振り付けを出来ると喜んでいた。踊りのセンスを認められたと。


社長にダンスの実力を認められたのは本当だけど…ある意味、お金の節約でもある。

メンバーが振り付けを考えたらダンス講師にお願いしなくていい。


三番手・四番手の私と梨乃はセンターには立てないけど、踊りのセンスはあるからと振り付けをさせられる。

もしかしたら、私が《させられる》と思っているからダメなのだろうか?


そんな…矛盾や不条理を考える日々だ。



時々、全てにおいて無気力になる時がある。振り付けをするのはグループの為だと、自分の為にもなると分かっているのに、結局センターは美香で二番手は由香里。

分かりきっているのにね。でも、努力が報われることを信じたくて夢を見てしまう。


「ねぇ、みのり」


私の隣で黙々と手を動かし、淡々とバイトをしていた梨乃が私に声を掛けてきた。


「何?」


「今日さ、ダンスの練習が終わったら私の家に泊まらない?」


嫌な予感がする。梨乃の話し方のトーンが暗く、表情はいつもと変わらないのに梨乃から発せられている空気感が重い。


「いいけど…どうしたの?」


「家で話す…」


嫌な予感ほど当たるから嫌になる。バイト中もダンスの練習中も梨乃に話の内容について聞けず、イライラと不安に苛まれながら頑張って落胆する運命だからだ。


無情な予感と戦いながら梨乃の家に着き、それぞれお風呂に入った後、梨乃に借りたパジャマを着て横並びにベッドに座ると梨乃が真剣な表情をしながら口を開く。


「私ね…CLOVERを辞めようと思う」


いつかは言われるかもと思っていた言葉だった。今のアルバイト生活やアイドル活動のことを考えると未来が不安になるし、私だって頭に過ぎることはある。


でも、素直に「そっか」なんて言いたくないから「早すぎるよ…」と梨乃に言った。

まだ、結成して1年だ。まだ1年。私はやっと掴んだアイドルを辞めたくない。


「私ね、アイドル辞めて大学に行こうと思っててね…」


アイドルを辞めて学業に専念する。よくアイドルが卒業する時に使っている常套句だ。

私はいつも《なぜ、両立できないのって?》って思っていた。だからこそ納得できない。


「大学に行きながらアイドルをやればいいじゃん。大学に行きながらアイドルをやってる子なんて沢山いるよ」


「来年、20歳になるし…親に10代までは好きなことやってもいいけど20歳になったらちゃんと先のことを考えなさいって言われてる」


耳が痛い言葉だ。私も来年20歳になり、私はまだ言われてはないけどきっと来年には言われるはずだ。それほど10代と20代は違う。


「これがさ、売れているグループだったら違ったかもしれないね。バイトをしなければいけないアイドルなんて先が見えないから…」


「そんなこと言わないでよ…」


梨乃が辛そうな声で言うから胸が痛い。リアルが苦しくて現実を目の当たりにする。

なぜ、憧れていたアイドルを辞めてまで学業に?って…本当の理由は分かっている。これ以上続けても未来が見えないから。


20歳なんて人生で考えると若い年齢だけど、女性アイドルは年齢を重要視される。

女の子はアイドルをやれる期間が短い。人気アイドルグループでも20代半ばになると大抵のメンバーは卒業して違う道に行く。


20代半ばになると強制的に未来を見据える時期になり、20代半ばまでグループにいると卒業後のプランニングが大変だ。周りの同世代は女優の仕事の経験を何年も積んでいる。


私の好きだったアイドルグループの人気メンバーも20代前半でステップアップのためにグループを卒業し、女優として活躍している。


そして、私と梨乃は19歳で…売れていないアイドル。やっと憧れたアイドルになれたのに人生の選択肢という分岐点に立っている。


「それにさ、まだ新しい夢はないけど…いつか見切りをつけないといけないなら早めの方がいいかなって。20歳を越えると余計に迷いそうで」


「それでも早いよ…」


「そうだね。あー、やっと憧れていたアイドルになれたのにな。私の親、元々アイドルになるの反対しているから」


あっという間の1年。CLOVERはまだメジャーデビューもしていないし、アイドルとして何も成し遂げていない。

これが大手の事務所だったら違ったかもしれない。でも、そんなのタラレバだ。


人生、簡単には上手くいかない。アイドルになった時、すぐに人気アイドルになると思っていた。でも、そんな未来は遠かった。


若さは永遠ではない。まだ、19歳なのに未来が怖い。やっといくつものオーディションを受け掴んだアイドルなのに、頑張っているのに未来がぼやけている。


10代は前だけを見てがむしゃらに頑張れるけど、20代になると現実を見ようとする。周りが現実を見せようとする。


「梨乃がいなくなるの嫌だよ…」


「みのり…泣かないでよ」


私に梨乃を止める権利はない。梨乃の人生は梨乃のものだ。だけど、寂しい。

梨乃は私と同い年で、ずっと一緒に切磋琢磨してきた。三・四番手でも頑張れたのは梨乃がいたからだ。来年、私は心の支えを失う。


私はきっと耐えられない。梨乃が抜けた後、新しいメンバーが加入し、もしその子がセンターになったら私は完全な四番手になり…

美香と由香里とも仲は良いけど、心を許せるのは梨乃だけだった。

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