第37話/彼女はちょっと変わっている
松本梨乃.side
お風呂から上がった私は自分の部屋に入るなり、濡れた髪のままベッドの上に倒れ込む。
最近、みのりのことを考えすぎて疲れることが増えた。恋って…もっと楽しいものだと思っていたのに正反対だ。
みのりは谷口さんとまだ一緒にいるのかな?それともお泊まり?
2人が高校の同級生であり、仲の良い友達という関係性の強さが恨めしい。
もし、私がみのりと高校の同級生だったら…きっと私とみのりはただのクラスメイトの関係で終わっている。
アイドルとして、同じグループのメンバーだから私とみのりは仲良くなった。
みのりは頭も良いし、カッコいいし、優しいからきっとクラスでも人気者だったに違いない。私は普通の地味な子で…きっとみのりとは違う輪にいたはずだ。
地味な私はみのりのことを憧れの存在としてひっそりと見ていたのかもしれない。
心の中で仲良くなれたらと…到底無理な願望を抱きながら見つめるだけな日々を過ごす。
自虐的だけど、きっとそうなっていたはずだ。だから今の環境に感謝しないといけない。
CLOVERのメンバーになれたからこそ、みのりと出会え仲良くなれた。
天井に向かって大きくため息を吐く。頭を切り替えたくて起き上がり、壁に寄りかかりながらベッドの隅に置いてある、よっちゃんから渡された漫画本を手に取る。
漫画本の表紙を眺め、私がヒロイン役のオーディションなんてと呟く。
ハッキリ言って私は演技をする仕事に全く興味がない。アイドル以外の仕事に興味がない私は変わり者だろうか?
メンバーはアイドルの先の夢をみんな持っている。美香も由香里もみのりも…女優になりたいと言っていた。
私はアイドル以外の夢がない。アイドルとしてメンバーとずっと一緒にいたい。
私の夢はキラキラと輝くアイドルになることだ。私に勇気と元気をくれたアイドルになりたくて必死に今まで頑張ってきた。
やっとその夢が叶いそうで、今はその夢に向かってガムシャラに頑張りたいけど、私の頭の中はアイドルよりみのりのことばかりだ。
みのりに会いたい…早く会いたい。アイドルよりみのりへの比重が重く、恋に盲目になりかけている私は恋愛中毒者だ。
さっき、よっちゃんからLINEが来た。とりあえず、オーディションだけでも受けてほしいと書いてあり…やっと、メジャーデビューするCLOVERのためにもなるからと断りづらいことが書いてあってずるいと思った。
そして、もし…私がヒロイン役を掴めたら他のメンバーも注目されるよって。みのりもきっと喜ぶからと…。
私がオーディションを受けることはみんなのためになるって誘い文句が私を迷わせる。
◇みのりのため…
◇メンバーのため…
◇CLOVERのため…
みのりのためだったら嫌なことでも頑張れるし、乗り越えられるけど…と考えながらどうせ私なんかがオーディションに受かるはずもないと考えに至り、よっちゃんにオーディションを受けると返信した。
無名で、まだメジャーデビューもしておらず、演技経験もない私が受かるはずがない。きっとオーディションも受ける人数が少ないから数合わせでしかないはずだ。
どうせ審査員にやる気のなさも見抜かれるだろうし、さっさと終わらせてしまえばいい。
少しだけ気が楽になった私は漫画本を読み始める。内容はどこにでもいる平凡な主人公の男の子と自分に自信がなく、好きなことにしか全く興味を抱かない少し変わっているヒロインの青春漫画だ。
主人公とヒロインは女の子のアイドルが好きという共通の趣味を通じて仲良くなり、物語が展開する。
このヒロイン…共感できるかも。私と同じでアイドルに救われてアイドル好きになった。
アイドルのことになると目の色が変わり、めちゃくちゃ明るくなって主人公を振り回す。
でも、教室にいる時は影がある感じでひっそりと過ごし、クラスメイトに話しかけられてもアイドルのこと以外興味を示さない。
私みたいだなっと思いながら読み続け、あっという間に最新刊まで読み終わった。
絵も可愛く、内容も面白く、密かに続きが出たら買おうかなと思いながら、また表紙の絵をジッと見つめる。
髪の長さや見た目の雰囲気なんて、似せてしまえば誰でも似ることはできるけど、私は丁度ヒロインと髪の長さが同じような感じで…年齢も近いし、だからオーディションを受けさせられるのかと思った。
本をまたベッドの隅に置き、携帯の写真フォルダを開く。漫画のヒロインが今の私と同じように大好きなアイドル(みのり)の写真を見つめ微笑むシーンがあった。
凄く共感できるシーンであり、アイドルは私の力の源だ。私もアイドル以外興味がない。




