第34話/私のフィロソフィー
私の歩みが止まっているせいで、梨乃達との距離ができていく。でも、美沙が電話に出たことで梨乃達を追いかけることが出来ない。
「美沙、まだクリスマス会中?」
「あー、それね。抜け出した」
「そうなの?」
「うん。つまんなくて」
じゃ、私が見たのはやっぱり美沙なのだろうか?可能性が高くなってきた。
「今、どこ?」
「イルミネーション見てる」
「やっぱり…美沙だったんだ」
「えっ、どういうこと?」
さっき、美沙らしき女の子を見たと伝えると「多分、私だねー」と言ってきた。
「1人なの?」
「うん。ブラブラしてる〜」
変な集まりに行かれるのも嫌だけど、美沙が1人でいるのも好きではない私は不安になる。美沙は可愛いからよくナンパされるし、軽い人にばかりモテるのだ。
ほら、予感が的中した。
美沙が急に誰かと話し始めた。相手は男の人で、きっとナンパだろう。
女の子が1人でいたら声掛けの対象になる。
「あっ、みのり。ごめんね。急に声掛けられて。みのりはもうライブ終わったの?」
「終わったよ。今、メンバーとイルミネーション見てる」
「そっか」
あっ、梨乃達が私がいないことに気づき私のことを少し離れた所から見ている。
きっと、電話を掛けているから声を掛けづらいのだろう。私も待たせているから早く合流したいけど美沙のことが気になる。
「美沙…今も1人?」
「うん。あっ、言っとくけどナンパには興味ないからね。軽すぎるもん」
「そっか」
それでも、きっと美沙が1人でいる限りどうなるかは分からない。
「美沙、一緒にイルミネーション見よう」
「えっ?でも、メンバーの子達と一緒にいるんでしょ」
「もう、帰る予定だから」
きっと、美香達は拗ねるだろう。嫌がる美香達を早く帰らせようとしているのは私だ。
「美沙、そっちに向かうから動かないでね。あっ、場所どこ?」
「大きな木のツリーがある所」
「分かった。すぐに行く」
美沙との電話を切り、私は急いで梨乃達の元へ向かう。美香に「寒いよー」と言われ、ごめんねと謝った後に私は更に謝る。
「ごめん。先に帰ってて。用事ができた」
「えー。みーちゃんだけずるいー!」
「美香、ごめんって」
「みのり…誰かと会うの?」
「うん。友達の美沙と」
梨乃に理由を聞かれ、私は素直に美沙と会うと伝えた。変に誤魔化すと美香達がやだーとごねるからだ。
「みんな、気を付けて帰ってね」
「分かった…みのりも気を付けてね」
梨乃に美香達を押し付けて申し訳ないけど、私は手を振ったあと美沙の元へ急ぐ。
今日はクリスマスだから人が多すぎる。歩くスピードが上がらず、何度かイルミネーションを見ている人達とぶつかってしまった。
「美沙」
「あっ、みのりー!本当に来てくれた〜」
大きな木のツリーの近くにいた美沙をやっと見つけた。安心した私とは真逆で美沙はいつもの美沙でおでこを叩きたくなる。
「みのり、顔が赤いよ」
「だって、寒いもん」
「みのりは寒がりだもんね」
「美沙も寒いでしょ」
「今は温かいよ。嬉しいから」
へへと言いながら私に腕を組み「みのりとクリスマス〜」と早速クリスマスを楽しんでいる美沙。相変わらずの切り替えの早さだ。
「ずっと、イルミネーション見てたの?」
「うん。せっかくだから」
「電話くれたら良かったのに」
「だって、みのりは今日ライブだし、メンバーの子達とイルミネーションを見るって言っていたから」
確かにそうだ。美沙の誘いを断ったのは私で、美沙からしたら電話なんてしずらい。
「美沙、カフェに行こう。寒すぎる」
「うん。温かいカフェラテ飲みたい」
今日はクリスマス。周りは恋人達のクリスマスでもあるけど、私は友達と過ごすクリスマスだ。でも、これが一番合っている。
「みのり、ありがとう」
「急にどうしたの?」
「うーん、お礼を言いたくなった」
「そうなんだ」
煌びやかに輝くイルミネーションを見ながらカフェに向かい、私と美沙はクリスマスを満喫する。やっぱり、1人より2人がいい。
ただ、こうやって美沙と過ごせる時間がこれから先、減っていくことが寂しい。
きっと、美沙が社会人になったら今より時間が合わなくなるし、美沙は結婚が早そうだ。
だからこそ、この一瞬一瞬を楽しい思い出として覚えていたい。やっと、未来を見るようになったせいでリアルが近くに感じた。




