第30話/彼方なユメに夢をみる
私と梨乃はバイトを終え、店長に来月辞めることを伝えた後、一度事務所に向かう。
事務所内に入ると制服姿の美香と由香里がおり2人に「遅いー」と怒られた。
これでも急いで来た方で、子供みたいに「5分も待ったー」と言う美香に苦笑いする。
美香にごめんねと謝り、よっちゃんを探すと離れた場所で何やら電話をしている。
電話で話しをしながら驚いた顔をし、何かを必死に手帳にメモっている。きっと仕事の電話だと思うけど戸惑っているようにみえた。
最後に電話相手に「ありがとうございます!」と言い、私達の元へ来た。
「みんな、ごめんね。さぁ、行こうか」
よっちゃんに声を掛けられ、私達は車に乗るため駐車場に移動する。
歩きながら前を歩くよっちゃんを見ると必死に携帯で何かを検索していた。
漫画本みたいだけど、何の本かは分からない。私達に関係ある事なのかな?でも、よっちゃんは他のタレントと掛け持ちだ。
違う可能性が高く、私はレコーディングに向けて気持ちを集中する。
インディーズでCDを作っていた時と違い、メジャーデビューになると曲数も増え、スタジオにいるスタッフの人数も違う。
私達は1人ずつブースに入り、歌を歌っていく。まずはセンターの美香からだ。
美香の可愛い歌声が可愛いデビュー曲にピッタリで、等身大の恋の歌はリアルな自分には合わなくて悲しいけど、私はアイドルだからアイドルとしての仮面を被る。みんなが好きな純白のプリンセスを演じるんだ。
歌を歌うことが楽しい…
ブースの外にいるよっちゃんが私の歌を聴き、親指を立て「いいよ!」と言ってくれた。自分の武器を褒められると嬉しいし、梨乃も手を叩き喜んでいる。
順調にレコーディングが終わり、この後は打ち合わせをする予定だった。
でも、よっちゃんが予定が出来たといい別日に変更になり、レコーディングスタジオから駅まで送ってもらい解散することになった。
駅に着き、車から降りようとすると梨乃だけよっちゃんに呼び止められる。
残念そうな顔をしながら車の中に残る梨乃に、私達はなぜ梨乃だけ話があるのか気になりながらも手を振って車から降りた。
私は参考書を買うため駅の中にある本屋に行き、美香と由香里とは別行動をとる。
久しぶりに本屋に来た。基本、本はネットで買うから本屋に来ることがない。
参考書を探す前にぶらぶらと店内を歩く。雑誌と小説しか読まない私は雑誌のコーナーと小説のコーナーに行き、好きな作家さんの新刊が出てないかチェックをする。
欲しい物がなかったので参考書のコーナーまで歩いていると、漫画本のコーナーである本が山積みにされていた。
最近、賞を取った漫画みたいでこの本のコーナーの前にいる女の子達が早くドラマ化しないかなと話している。
でも、漫画を読まない私は興味がなく足を止めることなく参考書のコーナーを目指す。
欲しかった参考書を手に取り、レジに向かいながら大きなポップに大人気!と書かれた漫画本のコーナーをチラリと見る。
【奏多みどり/かなた みどり】
女性の漫画家さんだろうか?最近は性別が分からないペンネームが多いから本当の性別は分からないけど絵的に女性っぽい。
タイトルが「彼女はちょっと変わっている」とヘンテコなタイトルだけど、賞を取るぐらいだから面白いのだろう。
私もCLOVERで賞を取れるぐらい売れたい。きっかけさえあればと…夢見てしまう。
きっかけはとても大事なことで、今まで日の目を浴びてなかった物が急に注目される。
だからこそ、私は勉強を頑張らないといけない。クイズ番組などに出れたら、CLOVERや私自身を知ってもらえる。
これからのきっかけを模索しながら参考書を入れた袋を手に持ち家に帰った。
明日はまたバイトで、夕方からはカップリングの曲の振り付けを梨乃とする。
やる事は沢山ある。頑張らないと…メジャーデビューしても売れなきゃ意味がない。私は地下から脱出したい。




