第219話/思ってもいない未来
谷口美沙.side
私は大学の夏休み期間をほぼバイト三昧で忙しく過ごしている。といっても、みのり以外の人と遊びたくないからが理由で、今もサークルに遊びに来ない?とか飲み会とかに誘われるから断る理由がほしかった。
そんなバイト三昧の日々でも大学に行く日もあり、私は課題のために大学に訪れ、廊下を歩いているとチラチラと通りすがりの人の視線を強く感じた。
視線がずっと私について回り不快感が募っていく。そして、小さな声で「あの子だよ…」と聞こえ、振り向くと視線を逸らされた。
このパターンが一番腹が立つ。勝手に私をジロジロと見ておいて、勝手に自己完結みたいに終わらせる。
見られた私はモヤモヤが溜まり、ストレスになり、苛立つのに何も出来ない。
ほら…まただ。私が前を向いたとたん、また視線が来た。
「藍田みのりちゃんとお揃いのネックレスしてたよね?」
微かに聞こえたみのりの名前。何でみのり?と、何で私とみのりがお揃いのネックレスをしてるのを知ってるのと不安が募っていく。
みのりの名前が聞こえたことにより、もう振り向かないと決めていたのに私は振り向く。今度はさっきより長めに目が合い…また目を逸らされ反対方向へ歩き出された。
仕方なく私も歩き出す。これ以上、モヤモヤを増やしたくないしみのりのことが気になる。
誰もいない場所に着き、私は壁に寄りかかりながら携帯でみのりのことを検索した。
沢山、新しく始まるドラマのことや映画のことが書かれており、みのりの人気が伺える。とりあえず、更にスクロールしていくとみのりと私が通っていた高校名を発見する。
そして、いくつか気になるみのりに関することが書かれており、眉間に皺が寄っていく。SNSには妄想だ!と、虚言だ!と言い切れないことが書かれていた。
・藍田みのりちゃん、城翠高校出身だよ。私、後輩だもん
・藍田さん、女の子にもかなりモテてたよ
・この写真の女の子とかなり仲が良くて、ずっと引っ付いていたイメージ
スタンプで隠されてないみのりとスタンプで顔を隠された私の写真を見て怒りが沸々と湧き上がる。でも、どうすることも出来ないと分かっており、大きなため息を吐いた。
でも、疑問がまだ消えない。さっきのあの子達は私の存在を知っていた。この写真は私の顔はスタンプで隠されている。
もしかしてと、みのりの友達で検索をするとやっと疑問が解消した。
私が通っている大学名とスタンプで顔が隠されていない私の写真があり…苛立つ。
私は普段SNSをしない。こうやって、みのりのことを検索する時だけだった。
だから、交流している人はおらず、私の大学名と写真をSNSに載せたのは同級生。
決めつけはよくないけどSNSをやらない一般人の私が通う大学名を知っている人は同級生しかいないのだ。
それに、私の顔が隠されていない写真は教室で撮られたものだった。
「最悪…」
今日は大丈夫だったけど、もしかしたら…いつかみのりのことを突然、知らない人に聞かれるかもしれない。
絶望に似た失望が私の言葉に重みを与える。
みのりのことを知らない人に聞かれるのも嫌だし、もし紹介してよとか言われたらブチ切れるかもしれない。
私はネックレスを服の中に隠す。SNSにはネックレスのことは書かれてなかったけど、さっきの子達は知っていた。
でも、ネックレスを買ったのは今年なのに…何であの子達は知っているの?
急に恐怖が襲ってくる。前、みのりの首にキスマークを付けちゃったけど大丈夫かな?女子高生、気づいていたよね?
CLOVERの藍田みのりってバレてはなかったけど、私がお遊びでやってしまった過ちが頭の中をグルグルと回る。
みのりはアイドルだって一番私が分かっていたいのにみのりの邪魔をしている。
私の独占欲のせいだ…
別にみのりとの異質の関係を知らしめたいとは思ってなかった。でも、みのりがアイドルになり、バイトとアイドルを頑張っているみのりとの距離が寂しかった。
松本梨乃ちゃんという同じグループの仲の良いメンバーにもやきもちを焼いていた…
今頃、反省しても過去は取り消せない。きっと、キスマークの件は大丈夫だと思うけどこれからも気を付けないといけない。
胸がずっとチクチクする。今日の朝、みのりと森川愛ちゃんのキスを見て痛んで…
今は違う痛みが胸を攻撃する。ダブルの痛みはかなりキツイけど、私はどうすることもできない無力の一般人だ。




