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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
219/221

第218話/遥か先の未来

久々に会った高橋君と背中をくっつけ表情を作る。この雑誌の撮影はもうすぐ公開される映画「さんかくパシオン」に向けてのプロモーションの一部だ。


私はプロとして、どけだけ気分が晴れなくても表情に出さず仕事をしないといけない。でも、私のせいで美沙に迷惑を掛けたことに対して悔しさと無力さで打ちひしがれている。


「はい、笑ってー」


昨日まで、私も愛読している女性誌の撮影で、緊張していた。愛読していた雑誌に載ることは夢の一つだったからだ。


だからこそ、必死に頭を切り替え、高橋君とお洒落な服に身を包み、まるで恋人かのように近づき微笑み合う。



私の今の仕事は…有難いことに充実している。でも、芸能界は未来が見えそうで見えない世界。未定の未来ばかりだ。


芸能界ほど未来が不安定な職業は無い。あっという間に予想の明日は変わる。

私は休憩中に高橋君と未来について話した。

そして、高橋君も人気グループに所属していても未来が怖いって言った。


今年、ドーム公演をやっても、来年できるか分からない。CDの売り上げも来年は半減してるかもしれないと。


そして、一番嫌なのはスキャンダルらしい。真面目な高橋君らしいよね。

スキャンダルが出れば、グループは連帯責任の如く叩かれると分かっているから。


何で、スキャンダルは無くならないのだろうね。あれだけスキャンダルで叩かれている人を沢山目にしているはずなのに。


人間は自分は大丈夫という盲目になりやすいのかな。そして、今の成功が永遠に続くと思ってはいないと思うけど、持続だけを求める。


いつのまにか、上を目指すのではなく持続・継続・維持といったものに変化をする。


って、これは私の偏見だからみんながみんなじゃない。現に高橋君は常に今の状況に慢心せず高みを目指している。

純粋だけど野心家。きっと、高橋君みたいな人が成功する人なんだろうね。


「不安はあるけど、好きな世界だから…」


高橋君がぼそっと呟いた言葉は今も頭から離れない。私が望んでこの世界に踏み入れた。アイドルに、女優に、なりたくて。


愛も高橋君も芯がとても強く、常に前だけを見ている。だからこそ、私も今まで以上に頑張らないと2人に追いつけない。



プロのカメラマンに撮られた写真を確認のため見つめる。画面にいるにはアイドル・藍田みのりではなく女優・藍田みのりだ。

別にジャンルを分けなくてもいいとは思うけど、アイドル衣装も着ていないし、、


何より、一緒に写っているのはメンバーじゃない。異性の男の子。


だから、つい分けてしまった。高橋君も画面に写っている顔の表情はアイドルスマイルではなく俳優の顔つきだ。


爽やかで、キュートなアイドルスマイルとは違う、ちょとだけクールで、はにかんだ笑顔が目を引く男の子。

衣装もシックなスーツで、合わせて髪型もセットしてあるから今日は大人っぽく見える。


私も大人っぽい衣装を着て、髪型もいつもと違う。化粧もいつもと違って、映画は学生役だけど雑誌が20代向けの雑誌だから雰囲気が大人っぽくなっている。


面白いよね。芸能界にいると色んな自分になれる。等身大の衣装を着ると19歳になるし、背伸びした衣装を着ると大人っぽくなる。

仕事をしながら色んな自分を楽しめるのは芸能人という特権で楽しい。


それに、高橋君という男の子とも知り合えた。私が気を遣わなくていい男の子。

仕事の先輩で、子供っぽいところもあるけどちゃんと芯があって、私より遥かに先の未来を見ている。


愛もだけど、私が尊敬する人達は遥か先の未来をいつも見据えている。いつか…私も遥か先の未来を見据えることが出来るかな?


アイドルとして成功した自分

女優として成功した自分


来年は再来年は5年後は10年後はどんな自分になっているかな?


CLOVERはトップアイドルになってる?

東京ドームでコンサートしてる?


映画「さんかくパシオン」はヒットする?

ドラマ「ラブ・シュガー」はヒットする?


今の私は少しだけ先の未来のことしか考えられない。いつも不安との戦いばかりで先のことを考えられる心の余裕がない。

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