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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第216話/惑う時間

テレビの影響は自分が思っていた以上の大きな反響を生む。私のSNSのフォロワーは鰻登りで増え続け、私の名前で検索をすると色んなことが呟かれていた。


高橋君と映画の制作が決まった時はこんなに反響がなかったのに…


こんなにも反響があるのはラブ・シュガー人気と愛の人気の相乗効果だろうけど、ここまで反応が違うと戸惑ってしまう。

さんかくパシオンの原作も人気だし、高橋君も人気アイドルだからだ。だからこそ、何が違うんだろうと困惑してしまう。


それに、私と愛のキスシーンの反響がめちゃくちゃ凄く…今日もアルバムに向けて事務所に向かい、会議室に入ると先に来ていた由香里と美香に捕まり耳が痛い。

2人の声が大きすぎるし、私の手を激しく振るから体がずっと揺れている。


「みーちゃん、キスなんて聞いてないよ!何で今日、キスシーンが流れると言ってくれなかったの!録画し損ねたじゃん!」


「私も知らなかったの」


由香里が鼻息荒く、朝の芸能ニュースを録画できなかったことに怒り出す。私だって、MVのキスシーンが流れると知っていたら親に言わなかった。


「本当だよ!私なんて違う朝の番組を見てたから見れてないし」


「美香はそもそも朝のニュース番組なんて見ないでしょ」


「普段は見ないけど…今日、ラブ・シュガーの制作発表のニュースが流れると知ってたら見てたもん!」


2人の怒りは当分収まりそうにない。そんな2人とは正反対の梨乃は椅子に座り下をずっと向いている。一言も喋らず、もしかしたら寝ているのかもしれない。


「ほら、みんな座って。打ち合わせ始めるよー」


よっちゃんが部屋に入ってくるなり、騒いでいる美香達を諌めてくれる。2人から解放された私はやっと梨乃の隣の席に座り、落ち着くことが出来た。


「よっちゃん、MVはいつから見れるの!」


「ハッキリとした日にちは分からないけど9月だよ。本当はドラマが始まる10月だったんだけど朝のニュースの反響が凄かったらしくて早まったみたい」


質問をした美香が手を叩いて喜んでいる。由香里も「やったー」と喜んでおり、私としては苦笑いしか出来なかった。

綺麗なMVになる予定だけど、きっと美香達は今よりも騒がしくなる。


「あっ、そうだ。美香、生徒役受かったよ」


「マジで!やったー」


よっちゃんの言葉に美香が手を叩きながら喜んでいる。生徒役ということはドラマか映画のオーディションなのかもしれない。


「みんなに報告するね。美香は10月から始まる学園もののドラマに出演決まりました。美香もみのり同様頑張ってね」


「もちろん!」


「それと、由香里は雑誌の表紙が決まったよ!」


「やったー!」


続々とみんなの仕事が決まっていく。

梨乃を除いて…


「そして、もう1つのご報告があります。なんと、2ndシングルのFeel Goodのタイアップが決まりました!深夜のバラエティーのエンディングに起用されたよ」


CLOVERの躍進が凄い状態だ。怖いくらいに色々なことが決まっていく。

この流れを作ったのは梨乃で、だから2ndのセンターを務める梨乃と喜びを分かち合いたかったけど、さっきから梨乃は沈黙のままで目がどこか遠くを見ている。


よっちゃんも美香も由香里も梨乃の様子に気づいているけどみんな黙ったままだ。

梨乃は溜め込む癖があるから、みんなそっとしているのだ。私も梨乃を見守っている。梨乃に無理強いをしたくなくて。


「みんな、頑張ろうね。2ndシングル次第でライブが決まるんだから」


「うん!」


やっと、梨乃がよっちゃんの言葉に反応をする。でも、目が曇っていて覇気が全くない。

やっと、みんなで前に進み出したのに…梨乃だけ立ち止まっているように感じた。

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