第205話/Bubble Bomb
田中・奏多みどり.side
今日も仕事場でCLOVERの曲を流しながら漫画を黙々と描く。3時間ほど時間が過ぎ、私は伸びをし椅子の背もたれに背中を預けた。
漫画家は常に前屈みで仕事をする。お陰で背中と腰がバキバキと鳴りそう程凝っている。
休憩がてらに甘いコーヒーを飲みながら携帯を触る。SNSを見ていると知っているタイトルを目にし、私は「へぇ」と呟いた。
時折、どこで情報を仕入れているのか分からないけど予知する情報を呟く人がいる。
「ラブ・シュガー」がドラマ化決定!
確か、この漫画は百香が友達に勧められて見ていた漫画本のはずだ。SNSにはキャストは書かれておらず、深夜枠でドラマ化が決定したという情報しか書かれていない。
でも、この呟きは沢山拡散されており、この漫画の人気度がよく分かる。
「百香、ラブ・シュガーがドラマ化されるみたいだよ」
「えっ!本当ですか?」
「正式な発表じゃないから多分だけど」
「そうなんですね…」
「何でため息ついたの?」
「友達が発狂するからです…」
百香が暗い表情をしながら言うから思わず笑ってしまった。でも、これは百香が悪い。発狂って変な言葉を使うから。
「先生!本当に大変なんですからね!」
「ごめん、ごめん。友達はそんなにラブ・シュガーが好きなんだね」
「はい…聖地巡礼をするぐらい好きです」
「聖地巡礼?そんな場所あるんだ」
「ラブ・シュガーが好きな人が一度は訪れる場所みたいです」
私は漫画家として聖地巡礼って言葉に憧れを持っている。彼女はちょっと変わっているは学校が主で聖地という場所がなかった。
「ラブ・シュガーは確か恋愛ものだよね?主人公がヒロインが告白した場所とか?」
「キスシーンを初めて描かれた場所です」
「おぉ。それは確かに熱いシーンだね」
「聖地は海が見えるスポットで有名な場所なんですけど、確か…森川愛ちゃんと藍田みのりちゃんがこの前、遊んだ場所ですよ」
「えっ?みのりちゃんと森川愛ちゃんが遊んだ場所?」
「先生がこの前、SNSであいみの〜と言っていた写真の場所です」
私は慌てて記憶を思い出すために森川愛ちゃんのSNSを確認する。2人が海の前で撮った写真を見て「ここか」と記憶を思い出す。
「絵里と天、誰が演じるんだろう…」
「設定は若いの?」
「はい。大学生です」
「じゃ…今、人気の前田櫂君とか」
「それは絶対にないですね」
「何でよー」
「男の子じゃないですか」
「えっ、どういう意味?ラブ・シュガーはラブストーリーだよね?」
「ラブストーリーですよ。でも、絵里と天は2人とも女の子です」
百香の言葉に私の思考が一時停止する。必死に脳を動かし、天って男の子じゃないのと思いつつ、ハッとする。
絵里も天も女の子ってことはGL!えっ、GLなの?えっ、聞き間違いじゃないよね?
「百香。ラブ・シュガーってGLなの⁉︎」
「そうですよ。あれ、言ってなかったでしたっけ?」
「聞いてないよ!」
「ラブ・シュガーはめちゃくちゃ人気のあるGL作品ですよ」
百香の突然の言葉に口が閉まらない。まさか、GL作品だとは思わず、、急にワクワクして口角がじわじわと上がっていく。
「先生…顔が気持ち悪いです」
「だってー、気になるもん」
「だったら、読んでみたらどうですか?」
「うん。今度、読んでみるよ」
仕事が終わったらと密かの楽しみができワクワクする。今までGL作品を読んだことがなく、ドラマも見たことがない。
だからこそ、未知の世界に興味があった。
「キャスト…誰だろう」
「気になるよね。原作がある作品はキャストが凄く大事な部分だから」
「そうですね。じゃないと友達がさらに発狂して大暴れします。あっ、友達がもし実写化されたら絵里の役は森川愛ちゃんがいいって言ってました」
私はタイミング悪くコーヒを口に入れており、思わず吹きだしそうになる。悪い意味ではなく、まさかの名前が出たからだ。
だって、森川愛ちゃんがGL作品に出たら、原作ファンも森川愛ちゃんファンも驚く。
「まぁ、流石にないですよね。って、、先生大丈夫ですか?」
「危うくコーヒーを吹き出しそうになった」
漫画を読んだことがないから何も言えないけど森川愛ちゃんがGL作品に出たら話題性がとんでもないことになり大変なことになる。
それほど、森川愛ちゃんの人気は高く、清純なイメージがあるからだ。
あっ、別にGL作品が清純ではないという意味ではなく【まさか】が強いのだ。
ふと、天役は誰だろう?と考える。絵里役に森川愛ちゃんの名前が出たってことは彼女側の方。だとしたら天役は彼氏的な役になる。
甘いコーヒーをまた一口飲み、SNSでさっき見たみのりちゃんの写真を思い出す。
ここ最近、【あいみの】は【みのりの】と同じぐらい人気があり、森川愛ちゃんの相手役だったらと…みのりちゃんを思い浮かべた。




