第203話/偶然のミッドナイト
今日は美沙と来たことのある海が見える場所に1人で来ている。倒れて以来、私は自分の体と心の休息を取るようにしている。
それに、これから仕事が更に忙しくなるから1人で色々考える時間が欲しかった。
夜風が気持ちいい。夏だから気温は蒸し暑いけどちゃんと風を感じる。
こんな時間に1人で過ごすのはよっちゃんに怒られそうだけど車で来ているし、元々1人で過ごす時間が好きなんだ。
柵に腕を置き、寄りかかりながら海の匂いを感じつつ星空を見つめる。明日も仕事だけど心のスイッチを切る時間も必要だ。
仕事が終わり、一度家に帰ってお母さんに10月から始まるドラマについて話した。
お母さんにGLドラマだと言うと、最初は驚いた顔をされたけど「おめでとう」とちゃんと心のこもった言葉をくれた。
それに共演者は愛だと伝えると「えっ!凄いじゃない!」と手を叩きながら喜ばれて、愛の知名度の威力をすごく感じた。
そして、大学受験のことも伝えると安心したような表情をされ…私のお母さんに対する完全に怒りが消えていった。
やっと、感謝の言葉を言えたよ。「支えてくれてありがとう」って。
「みのり…?」
感慨深い心情で思い耽っていると、後ろから女の子の声で私の名前を呼ばれ、えっ?と思いながら振り向くと、帽子を目ぶかに被った愛がおりまさかの出会いに驚いた。
「やっぱり、みのりだ。偶然だね」
「ビックリしたー」
「みのりも1人?」
「うん」
「ここの景色いいよね。私も結構、1人で来るんだよ。解放された気持ちになるから」
「そうなんだ」
愛が海を見ながら夜風を楽しんでいる。私も向きを変え、まだ夜風を楽しむことにした。
「あっ、みのり。ドラマよろしくね」
「ビックリしたよー」
「それは私もだよ。まさか、柚木天役がみのりだなんて思わなかったし」
「私も愛が苅原絵里役で驚いた」
私達は来月になったら恋人役でドラマで共演をする。だからかな…何となく、暗くよく見えないけど愛の唇を見つめてしまった。
愛とキスをするなんて不思議な感じだ。芸能界でメンバー以外で初めて出来た友達だからこそ愛との不思議な縁を感じる。
「何〜?私の顔を見つめて」
「愛とキスするんだなって思って」
「はは、みのりは相変わらずストレートな言い方をするね。恥ずかしいじゃん」
「私も恥ずかしいよ。キスシーンが多いって聞いてるし」
「そうなんだ。まぁ、だろうね」
今日の友は友達で明日は共演者になり、更に明日は恋人同士になる(役だけど)
まだ、撮影はもう少し先だけどこんな風に愛との関係が変わっていく。
「愛、少しだけドライブしない?」
「えっ、みのり!車で来てるの?」
「うん。だから、ドライブしよう。恋人の絵里との初デート」
「ははは。天とドライブデートだ」
私の言葉で愛が笑顔になる。愛と駐車場に行き、車に乗り込み私がエンジンをかけると愛がワクワクした表情で私を見つめる。
まるで小さな子供みたいで、今から遊園地に行くみたいに喜んでいる。
「よし。じゃ、行こうか」
「うん!」
「ラジオかけていい?私ね、夜のドライブでラジオを聴くの好きなんだ」
「いいよ。みのりってオシャレだね」
「えー、どこが?」
「だって、夜のドライブでラジオを聴くって大人って感じする」
「そんなの好みでしょ。ラジオはさ、普段出会えない曲を聴けるから好きなんだ」
「運転できて、ラジオを聴くみのりがカッコ良すぎてずるい」
「なにそれ」
「チートだ。チート」
「何でよ」
「全てがパーフェクトだから」
愛が真剣に言うから照れくさくて私はハンドルを握り、運転を開始する。隣に座る愛は窓を開け「楽しいー!」とはしゃいでいる。
私はラジオから流れてくる夜にぴったりな音楽に酔いしれる。高校時代に免許証を取っていて良かった。運転が楽しい。
「みのり。写真、撮っていい?」
「えー、恥ずかしい」
「いいでしょ。天と初めてのドライブデートの記念に撮りたい」
「いやだ」
「ケチー。いいもん、勝手に撮るから」
愛が携帯を取り出し私にカメラを向ける。私は運転しているから前を向いたまま、愛に向けてピースをした。
「ははは!みのりもノリノリじゃん」
「感謝してよね」
愛は梨乃達と一緒で私が素の自分でいられる存在だ。気が楽で、愛がサバサバしているからかな?私が苦手な女の子感がない。
「笑えるって幸せだな〜。明日も頑張ろうって思える」
「そうだよね」
「みのり、ありがとう。明日、頑張れるよ」
窓から景色を見ている愛はとても綺麗で、まだ19歳なのに女優のオーラが出ている。
愛とは同い年だけど尊敬と憧れを抱ける対象で、私も愛に追いつきたい。愛はいつも眩しくて今も手の届かない存在だから。




