第202話/シンギュラリティー
森川愛.side
今日は新しいドラマの打ち合わせで事務所に来ており、ミルクたっぷりの甘いコーヒーを飲みながら窓から外を眺める。
高校時代からまともに学校に通えていない私は通学という言葉とは無縁の生活だった。
沢山の大人や学生が早歩きで歩いており、自分が芸能界に入らなかったら同じようにあんな風に歩いていたのかな?と考える。
想像できないな…15歳から芸能界で働いていたからこそ普通が分からなくなっている。
それに、私は勉強が好きではない。得意でもないし、大学に行けるかも分からないし女優の仕事は私の天職なのかもしれない。
それにずっと、東京に憧れを抱いていた。別に地元がめちゃくちゃ田舎って訳ではないけどテレビの中の世界に憧れていた。
そして、芸能界は華やかだけど黒い闇もあり、19歳なのに沢山嫌なものも見てきた。
芸能界は生き残らないと消えていく世界。勝者と敗者に二分化される。
「お待たせー」
マネージャーがやっと来た。手には書類を持っており、コーヒーは持っていないからそんなには時間が掛からないみたいだ。
「まずは、柚木天役がオーディションで決まったよ」
「オーディションだったんだ」
「うん。天役は藍田みのりちゃんだよ」
「えっ!みのりなの?」
「プロデューサーと話したんだけど、藍田さん、かなり気に入られてたよ。藍田さんをオーディションで見た時、柚木天役にピッタリだと確信したって言ってたし」
「確かに合ってるね」
「後さ、藍田さんって頭が良いんだね。オーディションでは英語の台詞があったんだけど藍田さんは完璧だったって興奮気味に言われたし。だから、藍田さんの出身校の偏差値を調べたらめちゃくちゃ高くてビックリした」
「うん。みのりはめちゃくちゃ頭が良くて凄いんだよね。可愛くて、運動神経もよくて、頭もいいなんてチートだよ」
「はは、確かに」
柚木天は帰国子女。そんなには英語の台詞はないと思うけどイメージのためだろう。
もし、天役の人が英語を話せたら宣伝にもなるし視聴者や読者もイメージしやすい。
でも、本当…みのりは凄いな。英語の台詞を褒められるなんてかなり流暢だったのかも。
でも、みのりの学力を知っているからこそ流石だなという気持ちになった。
「愛は藍田さんと仲が良いからラブシーンに戸惑うかもしれないけど頑張ってね」
「うん、頑張る。緊張はするけど…」
「まぁ、それは仕方ないよ。ラブシーンは仲の良い人とする方がやりにくいし」
漫画の映像を私とみのりに当てはめる。絵里と天のキスが私とみのりに変換され…気まずい気持ちになった。
ずっと刺激は欲しいと思っていたけど、あくまで私は第三者でいたかった。
なのに、私はメインストーリーに組み込まれてしまった。私はモブでいたかったのに。
みのりとキスをしてしまったらと思ったけど、仕事だと割り切るしかない。
「あと、MVにも出ることが決まった」
「MV?」
「ラブ・シュガーの主題歌のMV」
「えー、珍しいね」
「主題歌を担当する人が顔出しNGの人で、だから2人の出演が決まったっぽい」
「そうなんだ」
「MVの監督もドラマの監督がするみたいだからドラマに合わせた感じになると思う」
「気合が入ってるね」
「BL、GL作品は当たるとデカいからね。それに森川愛がGL作品に出ることはかなりの宣伝効果になるし」
「そうなの?」
「BL・GL作品は若手の登竜門的な感じだからだよ。最近は売れっ子が出るパターンもあるけど基本は新人で売り出したい人だよ」
私はGLドラマに出るのはずっと刺激が欲しかったから。私にとっても挑戦で…マネージャーと話していて気合が入ってきた。新しい森川愛を知って欲しい。
「出来れば海外展開までいきたいよね」
「海外展開?」
「BLやGLは海外展開しやすいし、海外の熱狂的なファンがつきやすいんだよ」
流石、マネージャーだ。ちゃんと色々調べているし考えている。私は刺激が欲しかったから出演を決めたけど、マネージャーは先のグローバル的な展開まで見ている。
ラブ・シュガーはどこまで行くかな…
柚木天役がみのりに決まったと知り、みのりはきっと人気が爆発するだろうなと予測はしているけど、まだどうなるかは分からない。
でも、この作品でみのりの魅力が爆発するだろう。みのりは私から見ても魅力的だし、同性を虜にする魅惑的な顔と雰囲気を持っているし、チートだからハマる要素が沢山ある。




