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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第193話/ケセラケセラ

私の番号が呼ばれ、立ち上がる。よっちゃんに「頑張れ」と言われ、頷きながら歩き出す。

彼女はちょっと変わっているの時みたいにまたあの緊張感しかない部屋に行くのかと思うと胃が痛くなるけど頑張るしかない。


オーディションを受ける部屋は独特の空間だ。受験とも違う緊張感と張り詰めた空気がある。それに近い距離で見つめられることで緊張がMAXまで持っていかれる。


私の番は呼ばれた4人の最後で、ここで私はどんな風に受け答えをするのか、演技をするのかもう一度組み立てなければならない。

新人の私にとってオーディションは学びの場でもある。常に勉強で休憩する暇はない。



あー、やっぱり英語の台詞があった。柚木天が帰国子女の役だからこそだと思うけど、もしかしたら私に少しだけ利があるかもしれない。みんな、苦戦をしている。


台詞が読めない人がいたから、きっとオーディション用の台本には英語(読みがない)の台詞しか書かれていないのだろう。

イントネーションも全然違うし、みんは終わった後に落ち込んで俯いている。


「それでは24番の方、お願いします」


「はい」


私は自己紹介をし、指定されたページを開く。まずは普通に日本語の台詞を言いながら演技をする。

少しだけ緊張が解けていた私は落ち着いて演技ができたと思う。


次は英語の台詞。きっと、みんなは英語の台詞を言わないといけないと分かったからこそ、緊張していたと思うし表情が暗かった。


私は英語の台詞を言いながら必死に演技をする。英語の台詞を言いながら演技をするのは初めてで上手く出来ているのか分からない。

それに演技に気を取られて発音も上手く出来ているのか分からず戸惑ってしまう。


「おー。藍田さん、英語完璧だね」


「ありがとうございます!」


「留学とかしてたの?」


「いえ、独学です」


「そうなの?凄いねー」


「いえ…そんな」


私の英語の台詞は上手くいったみたいだ。監督やプロデューサーの人が褒めてくれる。

そして、今回の作品はGLだからか、監督もプロデューサーも女性だ。だからかな、違う方面でも褒められることになる。


「普通はこんなこと聞かないんだけど…藍田さんって高校どこ?」


「城翠高校です」


「えっ!城翠なの?めちゃくちゃ進学校だね。英語を独学で覚えるのも納得だわ」


「ありがとうございます…」


まさかの方向で褒められ照れてしまうし、戸惑ってしまう。一緒にオーディションを受けている子達も小声で「凄い…」と言うし。


出来れば、早く座りたいしこの緊張から解き放たれたいけど監督とプロデューサーの人が私の母校の偏差値の話をするから苦笑いしながら受け止めるしかできなかった。


「藍田さんって運動神経もいいよね」


「はい。得意です」


「完璧だね。顔も可愛いし、バスケも上手いし、頭も良いなんて羨ましい」


流石に気まずくなってきた。他の子達がいる中でずっと私の話をしているし、演技の話とは遠い話をしている。


「城翠って確か女子校だよね?」


「はい」


「藍田さん、モテたでしょ。同性受けする顔立ちだし」


「いえ…そんな」


「告白とかは?」


「それは…同性にってことですか?」


「うん」


「あります…」


「やっぱり」


監督とプロデューサーがニヤッと笑い、何かに納得した表情をする。私は根掘り葉掘り聞かれて戸惑うしかなくて、私に使われている時間だけが長くて恐縮してしまう。


「はい。ありがとうございましたー。結果は後日、事務所にご連絡しますね」


「はい!ありがとうございました!」


頭を下げ、やっと部屋から出ていくことができた。今回のオーディションは前回のオーディションとは全く違って変な感じだ。


一緒に受けた子達は私をジロジロと見るし、すでに泣きそうになっている子もいる。

私はやっと解放されたことで深く呼吸をした。やっと、普通にできる。


「みのりー!どうだった?」


「分かんない…」


「そうなの?」


「あっ。やっぱり、英語の台詞あったよ」


「やっぱりかー。上手く出来た?」


「多分…」


一緒に受けた子達よりかはちゃんと読めていたし、発音も良かったはずだ。褒められたし。でも、あとは演技だ。

こればかりは自分では分からない。ちゃんと出来ていたとは思うけど役に合わなかったら意味がないし、みんは演技は上手かった。

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