第192話/アオく光る
ライブがない分、私達は2ndに向けて全力で走っている。レコーディング、ダンスの練習、MVの撮影、ジャケットの撮影が終わり、8月になった。夢中で過ごしているといつのまにか季節が変わっていくから驚いてしまう。
髪の毛を整え、私は鏡を見ながら柚木天を意識し模索する。漫画のキャラだから合わせるのが大変でなかなか感覚を掴めない。
鮎川早月は私と似ている部分が多かったから感覚が掴みやすかったけど柚木天は違う。
所謂、早月同様カッコいい女の子ではあるけど早月とは違うカッコよさ。どこかクールーで、帰国子女だから愛情表現が大きくて、私は元彼にこんな風に接したことがない。
それでもと必死に私の中で柚木天を作り上げていくしかない。私は何がなんでもオーディションに受かりたい。
「みのりー」
「何?」
「もしかしたら、オーディションで英語の台詞があるかもしれないから意識しといてね」
「分かった」
「みのりってさ、英語得意?」
「一応、得意かな。成績も良かったし。発音はあんまりネイティブじゃないけど」
「流石、みのり。会話はできるの?」
「ある程度ね」
「おー、凄いね。みのりは本当頭いいね。運動神経もいいし、欠点がなさすぎるよ」
「そんなことないよ。欠点だらけだし、上には上が沢山いるし」
「十分凄いよ。広い世界で見たら確かにみのりより凄い人はいるけど、アイドルの世界ではみのりみたいな子は少ないよ。それだけ頭が良かったら有名な大学を目指すし」
「まぁ、私のクラメイトはみんなそんな感じだね」
今回、私の武器がどこまで行かせるのか…。きっと、オーディションには本当に帰国子女の子とかいるがしれないし、よっちゃんにみのりは同性に好かれるタイプと言われたけど自分ではいまいちピンと来ていない。
もうすぐ、よっちゃんが運転する車がオーディション会場に着く。建物の中には沢山の私と同世代のライバルがひしめく。
私はあの中で勝たないといけない。でも、梨乃が映画のオーディションに落ちたぐらいだから…私が受かる確率はかなり低い。
「みのり、リラックスだよ」
「うん」
手に持っている原作本の漫画を少しだけ強く握りしめる。緊張が全く取れない。
心臓がドキドキする。緊張で唇が乾いてきたし、手が微かに震えている。
綺麗なテレビ局の中は…私の心をワクワクさせる。私はドラマと映画と音楽番組以外でテレビ局に来たことがなく、何度か番宣で来たぐらいで私には遠い存在の場所だった。
「みのり。こっちだよ」
「はーい」
キョロキョロと周りを見ながら歩く。初めて見るものは楽しくてワクワクする。
でも、オーディションを受ける人達がいる楽屋に入ると一気に緊張が私の体に走る。
みんな、気合が入っているし、ちゃんと柚木天の雰囲気に合わせている子が多い。
真剣な表情で漫画を読み、必ず受かって見せるという気迫が凄く分かる。
私の知っている若手の女優の人もいて、今回も当たり前だけど厳しい戦いになるだろうね。みんな、可愛くて強敵だ。
「みのり、リラックスだよ。リラックス」
「分かっているって」
私に出来ることはやってきた。それに、どれだけ頑張っても実らない時はある。
その時は新しいオーディションに切り替えてやればいいと自分に言い聞かす。
「あっ、よっちゃん。主人公の苅原絵里役はもう決まっているの?」
「どうだろ?でも、オーディションは行われてないみたいだから決まってるかも」
「そうなんだ」
もし、苅原絵里役がすでに決まっていたら苅原恵理役を演じる女優に合わせるパターンになるかもしれない。
どれだけ役にピッタリでも相性があるし、見た目の相性(身長とか)も大事だ。
まだ、苅原恵理役は誰も知らない。ってことはみんなまだイーブンの立ち位置にいる。
事務所の大きさも少しはあるかもしれないけど、彼女はちょっと変わっているで新人の梨乃が選ばれたみたいに《もしかして》がある。




