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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第178話/マイライフQUEEN

この日を迎えると胸が熱くなる。初めての映画の作品がクランクアップし、私はスタッフの人に花束を貰い、ありがとうございます!と言いながら笑顔で頭を下げる。


初めてのドラマの時は涙を流したけど、今回は笑顔で終われた。お礼の言葉を言い、感無量の気持ちになっていく。


今日、撮影がない高橋君も現場に駆けつけてくれて笑顔で「お疲れさま」と言われる。


「来てくれてありがとう」


「ドラマからずっと藍田さんと一緒だったからちゃんとお疲れ様って言いたくて。あっ、そうだ。CD買ったよ。Kiss Me、良い曲だね。MV見たけど藍田さんが可愛い衣装を着て踊ってる姿がいつもの印象と違って驚いた」


「えっ、買ってくれたの?ありがとうー」


高橋君の礼儀正しさと律儀さは改めて凄い。ちゃんと等身大の自分と大人としての立場を使い分けている。

更に「次は音楽番組で共演したいね」と言ってくれて私は「うん!」と返事をした。


高橋君はアイドルも俳優も両立するアイドルでこの前、休憩時間に話したアイドル談義が面白かった。男性アイドルも女性アイドル並みに大変なことがあり…


高橋君の笑顔はキラキラと輝いているけどデビューまでの長い下積みと苦労話を聞いて知らなかった一面を知った。

だからこそ、必死にデビューを夢見て、仕事が大好きで、仕事にかける情熱が熱い。


「高橋君、明日の撮影頑張ってね」


「うん。頑張る」


いつか、高橋君が所属するグループのライブに行ってみたいけど無理だろうな。高橋君のファンはきっと嫌がるはずだ。


今日で《さんかくパシオン》の上坂未来としては終わり。しばらくしたら高橋君との雑誌の撮影などが始まるけど一区切りだ。


明日からはアイドルの仕事を中心になる。そして、ライブとドラマが最終回を迎える。

泣かないようにはしたいけど、大丈夫かな?次のライブが決まっていたら心構えが違うけど、まだ私達には遠い未来だ。


まずは2ndシングルを出し、アルバムを作る。ライブはカバー曲が多かったから、全てオリジナルの楽曲のライブが待ち遠しい。

あとは、オーディション。今度、映画のオーディションを受ける予定だけど…


正直、自信はない。ここで絶対に受かってみせる!と言いたいけど、、

でも、受かりたい気持ちは強い。ここまで、ドラマと映画を続けて出演できたことで女優の仕事に対して想いが強くなった。


私はアイドルをやりながら女優の仕事をする人になりたい。私の最終地点が女優だからこそ熱い想いがある。


高橋君に手を振りながら、周りのスタッフの人達に頭を下げながら退場する。この言い方だと寂しいけど撮影は終わったから退場するが一番しっくりくる。


また、この世界に戻って来れるよう頑張らないと。私はこの世界を知ってしまった。

一度知ってしまった世界は私の憧れを強くした。いつか、愛みたいな女優になりたいと。





谷口美沙.side


夜の海風が気持ちいい。みのりから映画がクランクアップしたからドライブしたいと言われ、私達はみのりの運転で海に来た。

海を見ているみのりの横顔は綺麗で、いつのまにかさらに綺麗になって大人っぽくなっており芸能人なんだと再認識する。


もうすぐ夏が来る。時間の流れが早すぎて、あっという間に私とみのりは20歳になる。

もうすぐ10代が終わるなんて凄いよね。もう19年も生きているんだよ。


今日のみのりは伊達眼鏡を付けているし、きっと…みのりは20歳になったらもっと変わるね。私が追いかけても追いつけなぐらい。


ここがもっとライトが当たる場所だったらいいのにな。みのりの顔を見たいのに薄暗く大好きなみのりの顔がよく見れない。

みのりは今、どんな表情をしているのかな?


「美沙」


「何?」


「お腹空いた…」


ははは、みのりは変わらない部分はやっぱり変わらないね。見た目がどれだけ変わっても中身は私の知っているみのりだ。


「みのり、せっかくだから写真取ろうよ」


「写真?いいよ」


「伊達眼鏡を付けたみのりは貴重だから嬉しいな。めちゃくちゃ似合ってるし」


「本当?ありがとう」


私達はいつもの距離で写真を撮る。私達の距離はきっと永遠に変わらない。

顔を近づけ笑いあい、写真を撮る。この写真はみのりのSNSには載らないけど丁度いい。


今日の出来事は私とみのりの思い出で、この日のみのりを独り占め出来る。

でも、いつかは変わる日が来るかもしれない。きっと、みのりがアイドルとして売れていくほどこの環境は変わる。


だからこそ、今の時間を大切にしたい。こうやってみのりと笑い合う時間は私にとってとても大切な時間で失いたくない時間だから。

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