第168話/POPなMIRAI
上坂未来の髪型にし、制服に着替え、軽く化粧をする。未来は自分と違うタイプの女の子で、鏡に映る自分の姿に違和感を覚える。
女の子らしい未来は一途に幼馴染の涼太を想い、映画のラストでは結ばれる。
今日は涼太と2人での放課後のシーンで今日の撮影シーンでは未来と涼太はまだ付き合っていない。でも、一度目のキスシーンは撮り終わっているから不思議な感覚だ。
隣には高橋君がおり、昨日のことを思い出す。私と高橋君との共演をよく思わないファンがいると分かり、やりづらさを感じていた。
別に高橋君は悪くないし、ファンの行動もムカつくけど本気で高橋君が好きなんだと分かっているからこそ諦めている。
私がどれだけ高橋君のことを友達や弟としか思っていないと言っても素直に受け止めてくれないし受け入れない。
まして、今回の話は恋愛映画だし、キスシーンもある。原作本を読んだファンからしたらきっと苦しくてたまらないのだろう。どれだけ仕事と分かっていても。
「藍田さん、今日のモモの寝顔見る?めちゃくちゃ可愛いんだ」
隣に座っている高橋君が携帯を手に持ち、身を乗り出してペットのモモ(猫)の写真を笑顔で見せてくる。私の思いとは反対に高橋君がフランクに話しかけてくるから気負っていたものがあっという間に抜けてしまった。
私はモモの写真を見ながら「可愛いね」と言い、頭を切り替える。結局、噂がどれだけ立とうが私達が本当に付き合ってなければ何も起こらないし、写真を撮られることはない。
それに、きっと高橋君はこれから色んな恋愛作品に出るだろうからすぐにファンのターゲットは移り変わる。これがアイドルの宿命。
吉田夏樹.side
楽しそうに携帯の写真を見ながら話す2人を見ながら微笑ましい気持ちになる。でも、昨日のことがあるから悩ましい。
高橋君が良い子だからこそ、ファンの行動は本人が知ったら悲しむだろう。
同世代の共演者は仲良くなりやすい。でも、これは撮影がスムーズに進むし、別に仲良くなることは悪いことではないからだ。
ただ、ファンからしたら大好きな人が共演者の女の子と楽しそうに話す姿はきっと嫌だろうね。自分からしたら遠い存在だからこそ。
それにしても、高橋君は私からしても面白い男の子だ。人気があるのに純粋で、恋愛慣れしている雰囲気が全くない。
実はこの前、高橋君のマネージャーと話す機会があり、高橋君が共演者とこんなにもフランクに話すのは珍しいと言っていた。
普段は人見知りが激しく、共演者とも余り話さないみたいで、みのりは高橋君にとって話しやすいタイプの子だったのだろう。
確かに前のドラマの現場でも、高橋君は森川愛ちゃんや梨乃とはあまり話す所を見たことがない。みのりがいる時だけだった。
映画の撮影は期間が短い。撮影が終わったらみのりも沢山オーディションを受ける。
多分、すぐには良い役は取れないけどコツコツと女優業を頑張れたらと思っている。
新人のCLOVERには足踏みしている暇はない。前へ進まなければトップアイドルになれないからこそ、女優の仕事に力を入れたい。
梨乃もみのりも演技の才能がある。そして、順調にチャンスを掴み取っている。
みのりはこれまで鮎川早月役でスポーツが得意な女の子で学校の王子様役を演じ、上坂未来役で可愛い今時の女の子を演じている。
私としてはどんな役も演じてほしいけど、ハマり役を見つけたい。今の所、早月のキャラが人気でみのりのイメージにもピッタリだ。
みのりのファンの田中さんが当て書きしているなら当然なんだけど、他の役も早く見たい。
梨乃も由香里も美香もこれからだ。メンバーみんながアイドルとして女優として活躍するアイドルを私は目指している。
このルートは私が考える最強のルートで、活動期間が短い女性アイドルに必須だ。
アイドルはいつか終わりが来る。終わりの先の未来を掴んでいないと終わってしまう。
他のアイドルグループにCLOVERが打ち勝つにはStellaのように女優とアイドルを兼業し、両方で人気を得ること。
この2つを手に入れた時、CLOVERは日本一の最強のアイドルグループになる。




