第167話/私のマキシマイザー
昨日は美沙の家に泊まり、美沙を充電できて幸せだった。美沙のお母さんの手料理も食べられ私は活力が漲っている。
高橋君のファンの件は面倒だけど、私にはどうすることもできないから諦めている。
今日は朝から1人で雑誌の撮影をし、休憩中は椅子に座り台本を開き台詞を覚える。暗記は得意だから覚えるのは早いほうだ。
でも、演技は暗記とは違うから頑張らないといけない。きちんと場面を想像しながら、上坂未来を作り上げていかないといけない。
何度も台詞を口にし練習しているとよっちゃんが興奮しながら小走りで私の横に来た。
手には携帯があり、さらに興奮しながら「やったよ!」と言われ、私はびっくりする。
よっちゃんの言葉には主語がないし、私に何が凄いのか教えてくれず、何度も「やった、やった!」とガッツポーズをしている。
「みのり!3位だよ!3位!ベスト10には入っていると思ったけどまさか3位なんて…」
よっちゃんは今にも泣きそうな声で噛み締めるように3位という言葉を連呼する。
私はやっとCDのランキングだと気づき、口を手で押さえた。数ヶ月前まで地下アイドルで一部の人にしか知られてなかったアイドルなのにデビューシングルで3位をとった。
これは大躍進であり、確実にCLOVERの名前が売れた証拠だ。このきっかけを作ったのはドラマの後押しであり…チャンスを掴み取り、やっと努力が報われた。
「凄い…よっちゃん、嬉しい」
「みのり達が頑張った証だよ。よく今日まで頑張ったね。本当、良かった…」
互いに涙を流し、私達は笑い合った。長かった苦難の時間がやっと報われた。いつデビュー出来るか分からずバイトをする日々に疲れ、4番手という位置に嘆き、デビュー出来たとしても未来が怖かった。
梨乃がドラマのヒロイン役を掴み、私も早月の役を掴み…私達の未来が変わった。
芸能界は努力だけでは上にはいけない。どれだけ可愛くても、綺麗でも、カッコ良くても、チャンスを掴まないと上がれない。
私達はチャンスを掴み、それをものにした。これからまだ撮影があるのに化粧が崩れてしまったけど、今は涙を素直に流したい。
「みのり、頑張ろう。次は1位が目標だし、絶対武道館でライブをするよ」
「うん!」
仕事に、未来に向けて気合いが入る。私達はまだまだこれからだ。今はまだチャンスを掴んだだけ。もっと上にいかないとすぐに下に落ちてしまうし、人気は保てない。
「あっ、そうだ。みのりにさ、クイズ番組のオファーが来ているけどどうかな?」
「あー、そうなんだ。でも、今はまだ断って欲しいかな。来年大学受験するつもりだし、ちゃんと大学に受かってからがいい」
「みのり…本当に大学受験するの?学業と芸能の仕事の両立は大変だよ」
「分かってる。でも、決めたことはやり遂げたいの。せっかくずっと大学受験に向けて勉強しているから投げ出したくない」
「そっか…頑張ってね。私もみのりをサポートするね。受ける大学は決めてるの?」
「開成大学を受けるつもり。友達の美沙が開成大学に通ってるんだ」
「えー、美沙ちゃんって頭いいんだね。あっ、みのりと同じ高校だったね」
もし、私が来年開成大学に受かっても美沙は3年生で一緒に大学に通える期間は2年しかない。それでも、受験するなら美沙と同じ大学にしたかった。
「みのりは本当に努力家だね。だけど、あまり無理はしないでね。倒れたら意味がないよ」
「うん。気をつける」
よっちゃんが心配しているけど、私は必ず来年合格してみせる。美沙のこともあるけど、お母さんへの対抗心が私のやる気だ。
私が私の道を切り開くと決めたんだ。どれだけ仕事が忙しくても、睡眠時間を削ってでも受からないとお母さんを見返せない。
松本梨乃.side
よっちゃんから電話でメジャーデビューシングルのランキングの結果を知った。
デビューが決まった時も嬉しかったけど、3位という凄い順位をとれたことはアイドルとしての最高の喜びだ。車の中で小さくガッツポーズをし、嬉しさの余韻に浸る。
これから先、もっとアイドルの仕事が増えたらいいなと願いながら、明日の映画のオーディションの原作本に触れる。
よっちゃんに読んでおいてねと言われ、読んではいるけどオーディションはライバルが多いと聞いているから受かるとは思ってない。
それに私が今回オーディションで演じる女の子は私とは正反対の性格で共感が難しい。
佐藤小春は私と似ていたから共感できたし、なんとか役に入り込むことができた。
演技初心者の私が全くの別人を演じることは無理なんだ。経験も熱意もない私がと思っているし、今回もみのりに言われたから仕方なくオーディションを受ける。
早く明後日になってほしい。どれだけ頑固者と意地っ張りと言われても私にはアイドルが天職でアイドル以外興味がない。




