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アイドルは偽装する。  作者: キノシタ
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第165話/混沌とした普通

良かった。美沙からやっと返事が来た。勝手に電車で美沙の家に向かっているけど、美沙はいくつのバイトをしてるのだろう?

カフェ以外でバイトをしているなんて知らなかったし、知らないことが増えている。


今日、泊まっていい?と送ると〈いいよ〉と返事が来て、私の気持ちは早く着いてと焦る気持ちでいっぱいだ。

美沙はあの後、大丈夫だったのだろうか?バイトをクビになってないといいけど…


早足で改札口を抜け、私は人だかりをすり抜ける。みんな、ゆっくり歩きすぎだよ。私は心まで急いでいるからゆっくり歩いている人にイラついてしまう。


「みのり」


「えっ…美沙」


でも、あれだけ急いでいたのに私の歩みは止まる。目の前にずっと会いたかった美沙がいて…胸が熱くなった。久しぶりに美沙に会えたことが嬉しくてたまらない。


「迎えに来たよ」


「ありがとう…」


髪が少しだけ短くなった美沙。美沙は美沙だけど、久しぶりすぎて感情が追いつかない。

きっと、他の人からしたらそんなに日が経ってないよねと言われそうだけど私と美沙はこんなにも離れたことがなかった。


「えっ…みのり」


私に目にはいつの間にか涙が溜まり、、美沙が手で私の目元を拭ってくれた。やっぱり、私は美沙がいないとダメだ。

めちゃくちゃ依存しており、強くなりたいけど、美沙から離れたくない。


「美沙、今日はありがとう…」


「当たり前でしょ」


「バイト、大丈夫だった…?」


「うん。もし、クビになっても新しいバイト探すし」


美沙は私が思っている以上に強い。そんな美沙の強さに憧れる。私は弱虫だから。


「お母さんが待ってるから行こう」


「うん」


久しぶりに美沙と手を繋ぐ。美沙の手を握るとやっぱり安心するし、美沙の体温を感じると私の中の毒素抜けていく。

嫌なことも忘れられ、美沙はこうやっていつも私の心を守ってくれた。





こんなにも楽しい時間はいつぶりだろう。美沙のお母さんのご飯を久しぶりに食べ、可愛くサインをおねだりされ、サインを書いた時の美沙のお母さんの喜びぶりが美沙とそっくりで可愛かった。


美沙とのお風呂の時間も幸せだ。温かい湯船は私を癒してくれる。隣に美沙がいることで最大級の癒しを味わえた。


背中が温かい…


美沙がいつものように私の背中を温めてくれる。美沙といつもと変わらない距離は私にとって最大の癒しだ。

どれだけ私の周りの環境が変わっても私と美沙の仲は変わらないし、変えたくないもの。


「あっ、美沙。バイト、増やしたの?」


「うん。今ね、教習所に通っているんだよ。だけど、料金が高くてびっくりした。お陰で貯金が0になったし」


「高いよね。私もびっくりしたもん」


「だから、バイト増やしたんだ」


「うん。お母さんに足りなかった分のお金を借りてるから早く返したいし、まだ先だけどみのりの誕生日プレゼントのお金を貯めたいから頑張ってる」


「無理しないでね…」


「大丈夫だよ。それに大変なのはみのりの方だし。みのりもあんまり無理しないでね」


「うん。気をつける」


私達はお風呂の中で今まで会えていなかった分、沢山話した。あまりにも長く入りすぎてのぼせそうになったけど心が元気になった。


今日の私達は…いつもの距離より近いのかも知れない。特にテンションが上がっている私はベッドの上で美沙にずっと引っ付いており、美沙とずっと戯れあっている。



綾香に、梨乃に…

どれだけ、私と美沙の距離が普通じゃないと言われても変わらない。私と美沙にとっては普通だから変える必要がないんだ。


どれだけ顔が近くても私達には普通で、体が0距離でも普通で、恋人同士のように戯れ合う私達はまるでラブストーリーの映画のような触れ合いだけど、これが普通なんだ。


きっと、キスをしても普通になるのかもしれない。美沙とだったら全てが普通だから。


なんて、そんなことはしないけど…今日の私は色々あったせいかたかが外れている。

リミッターが壊れているのかもしれない。美沙と1秒も離れたくなくて沢山甘えている。


ずっと、美沙の体温と匂いを近くに感じていたくて私は美沙を求めている。

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