第162話/ピンク色のユートピア
松本梨乃.side
みのりはプロのアイドルで今日あったことを顔には出さず仕事を全うしている。
美香も由香里も同じようにプロのアイドルとしてステージに立ち、笑顔を見せている。
私もプロのアイドルとしてステージに立ち、赤ではなく青い炎をメラメラと燃やす。
今日、みのりが高橋君のファンから妬まれた理由は嫉妬だ。でも、どうせ高橋君のファンは高橋君が他の女優と共演したらそっちに移動しまだ同じことをする。
だから、放っておく。どうにもならないし。
ファンは目に見えるものを信じる。これが私なりのみのりの守り方。谷口さんみたいなことが出来ないなら私なりの守り方をする。
これで2度目だね。みのりの頬にキスをするのは。でも、今回のキスはちゃんと意味があるんだよ。欲望だけじゃないし、みのりを守るためのキスでもある。
ファンが「キャー」と叫び、みのりは前回同様驚いた顔をする。美香達は内心また怒っていると思うけどいいんだ。
今日することに意味があるし、このライブがなくなったらするタイミングを失う。
もっと、もっと【みのりの】を浸透させる。みのりが高橋君と噂になっても鼻で笑うぐらい私とみのりの仲が広まれば私の勝ちだ。
吉田夏樹.side
壁際でみのり達を見守っていた私は目を見開き、ステージ上で起きたことに思わず口を手で抑えた。梨乃の突然の行動にいつも私は頭を抱えることになる。
きっと、梨乃は梨乃なりにみのりを守りたいのだと思う。でも、やり方が間違っている。
カップル売りは確かに有効な売り方だ。でも、それではみのりは守れない。
みのりも梨乃もアイドルであり
女優なんだよ。
お客さんから阿鼻叫喚のような声が聞こえ…嬉しい雄叫びにも聞こえるけど、私には地獄の阿鼻叫喚に聞こえる。
今日でまたみのりの人気は更に上がる。新規のお客さんが梨乃の新たな一面を知り、盛り上がっているし、側から見たらみのりが梨乃にキスをしそうなタイプなのに梨乃がみのりにキスをした。この思いがけないギャップがみのりのを燃え上がらせるのだ。
私はカップル売りはグレーだから良いと思っている。ホワイトとブラックで分けず、どっちにとってもいいよと選択肢を与える。
曖昧で、どっちかハッキリさせないからこそ盛り上がる。真実なんて知らなくていい、夢物語は楽しいから良いのだ。
明日、CLOVERのメジャーシングル「Kiss Me」の売り上げランキングが発表される。
とんな順位になるかまだ分からないけど、トップ10入りは確実で…これから先、みのりと梨乃をツートップとして売り出していく。
CLOVERが更に上にいくにはまず、個々の知名度を上げること。これが一番手っ取り早い。
そして、個人人気を上げるのに一番盛り上がりやすく、ファンの人気を掴みやすいのはカップル(コンビ)人気だ。
私が狙っていた通り、みのりの人気は鰻登りで、良い需要を生んでいる。でも、程よいカップル売りをしたかった。
私はこれから本気で気をつけないといけない。本当は静観したいけど、梨乃が暴走しないそうに見守らないといけない。
梨乃は大人しい印象があるけど、アイドルになるぐらいの活発さと強さを持っている。
それにしても…みのりもみのりだ。なぜ、みのりはあんなにアピールをしている梨乃の気持ちに気づかないのだろう?
確かにみのりは女子校出身だからか女子慣れしている部分もあるし、触れること・触れられることに慣れている。
というか、何も感じていない。私だったら緊張してしまうことを簡単に受け入れる。
これはみのりだからなのか、女子校出身だからなのかは共学の学校にしか行ったことのない私には判断がつかない。
でも、時折感じるみのりの異質さ。そうだよ、みのりと友達の美沙ちゃんの仲の良さと異質さに前、疑問に思っていたんだ。
キスマークってやっぱり変だよね…
みのりは梨乃にキスをされ、驚いた表情をしたけだすぐにいつものみのりに戻った。
みのりは引きずらない。普通だったらドキドキしたりするのに感情がないのだ。
心がないとかではなく、消し去るって言葉がピッタリで、みのりはずっと変わらない。
だから、みのりは梨乃の気持ちに気づかないし、言葉にしないと一生気づかない。
みのりと美沙ちゃんってどんな関係何だろう…今まで同性(女の子)の友達同士の関係なんて考えたことがなかった。
これは自分もみのりと同じ女で、よっぽどののことがない限り変わらないと思っていたせいで、疑問に思うことなんてなかったから。
でも、きっと…考えすぎだ。みのり達と私の年齢は違うし時代の流れもある。
それに、人はそれぞれで決めつけはいけない。考え方も生き方も人それぞれだし、みのりと美沙ちゃんの関係に違和感を持っても…私が口出しするとはできない。




